一般社団法人 自治体DX推進協議会

画像解析・画像認識A.Iで、人口減少社会の獣害対策とセキュリティを実現する

2011年3月11日に発生した東日本大震災、そして福島第一原子力発電所事故。
未曾有の危機に直面し、住み続けられるふる里を旗本に創業した企業は今、原発事故以降に福島県が抱えてきた課題、これから日本全体が抱えていく課題に立ち向かおうとしている。
画像認識A.I.を搭載した獣害セキュリティサービス【あいわなクラウド】と無人警戒サービス【VIGILA(ヴィジラ)】で、人口減少社会の危機管理はどう変わるのか─。

 


 

株式会社日本遮蔽技研 代表取締役副社長 平山 貴浩様

株式会社日本遮蔽技研
代表取締役副社長 平山 貴浩 プロフィール
  • 福島県会津若松市出身、元アセットマネージャー。
  • 仕事で訪れた郡山市で東日本大震災にあう。
  • 住み続けられる福島県の実現に向けて日本遮蔽技研を創業・帰郷。
  • 都立大学大学院に社会人入学し放射線計測学を学びながら事業を推進。
  • 2017年福島ベンチャーアワード優秀賞、2020年福島県発明協会会長賞、2022年こおりやま産業博アワードグランプリ受賞。


 


 

 

―東日本大震災を機に、放射線測定関連事業を主力として創業されたと伺いました

2011年3月、東日本大震災で起きた福島第一原子力発電所の事故対応というところに端を発しています。当時、私自身は東京の東日本橋に住んでいたのですが、都内で株式会社日本遮蔽技研を創業し、社と共に帰郷しました。ベンチャー企業にできることは限られてくるものの、現地の事情に沿った製品開発とサービス提供をするためには福島県内に拠点を置くことが重要だと考えて移住を決意。現在は本宮市に福島校正センター、郡山市に富久山作業所そして大熊インキュベーションセンターに活動拠点を置いています。

 

原子力発電所の事故は前例のないことだったので、まずは事故対応を進めていくために何が必要なのかを考えました。放射能汚染対策は、大まかに「放射線量・放射能濃度の測定」→「除染」→「除染後の検査測定」→「放射性廃棄物の運搬・保管」という順序で進みます。それぞれが別の作業であり、一つの技術で成り立つものではありません。

 

ただ、全てのプロセスで共通して求められるのが「放射線の防護」と「測定精度」であり、どちらも「きちんと不要な放射線を遮へいできている」ことが、必須条件となります。その大前提に行き着いて創業当初から主力事業としてきたのは、測定治具の販売です。ガンマ線の計測と遮へいの研究に基づき、放射能汚染環境での放射線測定方法の確立と、それを支える治具の開発です。当社の最初の製品として、除染施工時に、正確な除染効率が導き出せる【コリメータEARTHSHIELD®】を開発し、特許を取得。現場で使える製品として広く利用いただけるようになりました。これは後に、福島県発明協会会長賞を受賞しました。

 

遮へいができてこそ、放射性物資・放射線の「利用」が可能となります。製品開発の次に立ち上げたのが、計量法上必須となる放射線測定器の精度確保です。それが、徹底した放射線管理と規格のもとで実施される、「放射線測定器の校正(※)サービス」です。自信を持って精度担保ができる様になったので、測定器自体の開発を自社で進めました。県内での測定業務効率を飛躍的に高めるべく、移動しながらの連続測定、水中・地中の測定の際に、測定場所のGPSデータを同時に取得できるシステムと、屋外でも使用できる放射能濃度測定器を、提供するまでになりました。元々金融・不動産が専門の私自身は、現・都立大大学院に社会人入学し、物理学や放射線計測学を勉強しながらの道程でした。大谷浩樹先生(現・帝京大学 医療技術部診療放射線学科教授)の指導と励ましのおかげで、門外漢の自分が学びを続けられたと感謝しています。その後、放射線や中古の機器を扱うために必要な許認可を得てレンタル業務をスタート、2018年にはISO/IEC17025(試験所・校正機関に対する国際認定)の認定を受けました。日本のJIS規格に対応した測定器はもちろん、海外メーカーのものまで広く対応が可能です。

 

そのほか、レーザー光線を使った最先端の除染システムも実用化し、放射能汚染対策に用いるさまざまな機器やサービスを提供しています。

 

※国家標準とトレーサビリティのとれた、基準となる放射線測定器と線源を用いて、放射線測定器がきちんと測定できるか確認し、校正定数を求め機関として証明するものです。

 

 

─現在の御社は放射線関連事業のほか、危機管理関連事業、廃炉関連事業、再エネ関連事業を事業の柱として掲げていますね

はい。創業の契機は原発事故でしたが、そこから派生した「4つの課題」の解決を目指しています。放射線モニタリング、廃炉への対応、危機管理(人口減少社会への対応)、そして再生可能エネルギー利用促進。福島県が抱えているこれらの課題は、日本全国に共通する課題であると捉えて、各事業を展開しているところです。

 

原発事故が発生した際、大勢の人々が福島県から避難していきました。後々に戻ってきてくれた住民もいますが、原発に隣接した自治体では、まだ、1割程度にしか満たないでしょう。具体的にイメージすると、元々3万人が住んでいた自治体で、突如3,000人まで人口が減るという現象が起きたことになります。半ば強制的に超高齢化・超過疎化社会が作られてしまった地域が、福島県には存在するのです。危機管理関連事業は、「急激かつ極端に人が少なくなってしまった中で、どう危機管理をしながら生きていくのか」という課題に対応した事業になります。全国的にも今後人口減少の加速が懸念される中で、不可欠な解決すべき社会課題であると認識しております。

 

原発の廃炉関連事業については、国際的にも注目度が高く、国として失敗が許されない事案なので、そこに貢献するべく邁進しています。エネルギーの問題もまた、GX(グリーントランスフォーメーション)という言葉があるように、これから皆が考えていかなければならない課題でありミッションです。福島県は山が多い土地ということもあり、その固有の資産を活かして森林の再生や木質バイオマス燃料等の企画を進めています。

 

株式会社日本遮蔽技研の事業ドメイン

 

 

─それでは、本日のメインテーマである【あいわなクラウド】についての概要と、開発に至った経緯をお聞かせください

【あいわな®シリーズ】は、獣害対策用画像認識AIを搭載した獣害セキュリティサービスです。現在はワナと連動した【あいわな】と、害獣の遠隔監視・出没情報の取得を目的とした【あいわなクラウド】の2種類で展開していますが、ゆくゆくは「あいわなクラウド」へと統合を進めていく予定です。

 

もともと我々は、人口減少社会への対応を考えたときに、人工知能の中でも画像解析や画像認識の分野が特に重要になってくると認識していました。たとえばガスや電気の検針では、人が1軒1軒見て回る作業が必要になります。しかし働き手が減っていくと、このような作業をどんどん合理化していかないことには、社会全体が成り立ちません。そこで、現代のIoTやAIを活用してブラッシュアップしていこうというのが、【あいわな®シリーズ】開発の主旨になりますね。

 

基本的な仕組みとしては、まず監視カメラのセンサーが動くものを検知して撮影します。それから画像がサーバーに送られ、サーバー上のAI画像認識システムが獣種を特定します。その後、【あいわなクラウド】では出没した時間や場所の情報と画像をあわせて担当者に即時メールを送信、「あいわな」ではワナの扉を落としたうえでメールを送信するという仕組みです。「獣種の特定」という部分が要で、今対象となっている動物は、イノシシ・シカ・サル・クマの4種です。ワナと連動する【あいわな】では、他の動物が入っても扉は落ちませんし、捕獲頭数も設定できるようになっています。

 

獣害対策用画像認識AIを搭載した「あいわな®シリーズ」

 

 

─自治体様における活用事例や活用方法を教えてください

果物をはじめとした農作物が非常に豊富な福島県では、サルやシカによる被害が多く、中でもイノシシ被害は大変でした。最初は錯誤捕獲防止の為、イノシシだけを捕獲するために、現地に画像認識システムを置いて他の動物がワナに入っても反応しない装置「あいわな」を作ったのです。ただ、長時間の稼働には太陽光パネルやバッテリーが必要で、1ヶ所あたりの設置費用が高額になるため、なかなか導入が進まないという実情もございました。

 

そこでクラウド型のサービスを考えました。現地に設置するのが通信機能付きのセンサーカメラのみであれば、単三乾電池12本で半年ほど稼働させることができます。消費電力が非常に少ない通信機能を持たせているので、電線を引っ張ってくる工事も必要ありません。捕獲用のワナの近くに監視カメラという形で設置し、ワナにかかった動物を事前に特定し、適切かつ速やかな対応をすることを目的として、【あいわなクラウド】を活用されている自治体様が多いですね。また、動物の移動ルートや生体を調査する業務に、活用いただいております。

 

また、ワナを設置したときには動物を誘引するための餌を置くのですが、従来は猟友会の方が目視で巡回監視を行っており、見回りの労力が膨大になっていました。その見回りの部分に【あいわなクラウド】を活用し、猟友会の方には捕獲に専念していただけるようなスキームを構築されている自治体様もございます。高齢化が進んでいる猟友会において、省力化・効率化にお役立ていただけているようです。

 

さらに今後は、【あいわなクラウド】の仕組みを活用して、盗難等の監視に使える【VIGILA(ヴィジラ)】というシステムも展開しようとしています。

 

 

─【VIGILA(ヴィジラ)】についても詳細のご説明をお願いします

まず監視したい場所にカメラを設置して、侵入者等を発見したら画像を撮影して通知されるところまでは【あいわなクラウド】と同じです。ひとつ異なるのは、現地に警報装置を置いて、こちらもサーバーを使ってコントロールすることにより、リアルタイムで侵入者に警告を送ることができる点です。動物と違って言語による警告ができるので、明かりやパトライトの点灯とあわせて「見られています」「今警察に通報しています」等の音声を流します。

 

被害をゼロにするところまでは難しいかもしれませんが、侵入者が犯行前に逃げて被害を最小限に抑えることや、警備員が来るまでの行動を証拠写真として残すこともできるでしょう。盗難被害があっても証拠や情報が不足しているために対処が難しくなるケースも少なくないため、きちんと証拠を押さえて通報と対策にご利用いただけるように進めていきたいと思っています。

 

【VIGILA(ヴィジラ)】のターゲットとして特に考えているのは、盗難被害が多発しているメガソーラー発電施設で、一般社団法人太陽光発電検査技術協議会様との連携を進めています。そのほか、警備会社様や倉庫会社様とも連携を図ろうと動いているところです。世の中にあらゆる盗難被害が蔓延する中で、社会的貢献度が極めて高いのが警備業界ですが、人手不足が深刻化しています。有効求人倍率は7.43倍と言われており、これは一般的な有効求人倍率の5倍を上回る数値。地元に密着した中小警備会社様が売上を伸ばしていくために、社会的なニーズとして新しいシステムが求められているのです。

 

自治体様に関連する分野で既にお引き合いをいただいているのは、不法投棄の監視と、観光産業における「仏像が盗まれた」等の盗難対策です。この2点が問題になっている地域では、もれなく獣害の被害が一定数ありますので、獣害対策とあわせて人も獣もキャッチアップできるのではないかと考えています。カメラの設置に電気工事が要らないということは先ほどお伝えしましたが、設置のための土台等も不要で、フェンスやポールに取り付けて電源を入れるだけで、すぐに警戒監視を始めることが可能です。状況に応じて設置場所を変えながら、複数の分野で機動的に活用できるのではないでしょうか。

 

 

 

─導入されている自治体数と反響、【あいわなクラウド】および【VIGILA(ヴィジラ)】の強みをお聞かせください

既に導入されているのは福島県内の5自治体と富山県庁様ですね。今の時点で来年度の導入が決定しているのが、福島県内の3自治体になります。この3つのうち2つの自治体様は、不法投棄の監視で【VIGILA(ヴィジラ)】を導入予定です。

【あいわなクラウド】をお使いの自治体様から特に評価していただいているのは、「労力の低減」と「即時性」ですね。従来のカメラではSDカードの回収が必要だったのですが、同サービスでは通信で画像を取得できます。行き帰りの労力が大幅に削減できたことはもちろんですが、回収してきたSDカードに保存されている画像データの確認作業も削減できたと聞いています。

 

また、出没情報がすぐにわかるという点も非常に大きなメリットです。行政が判断し住民に向けて害獣の警報を出すにしても、今までは誰かが目撃して警察や自治体に通報してから動き始めていたので、1時間~2時間くらい経たないと広く情報が伝達されないというケースも少なくありませんでした。【あいわなクラウド】では、動物の撮影・認識から担当者に通知が届くまでに1分もかからないので、かなりリアルタイム性が確保されます。

 

前述のように消費電力が少なく簡単に設置できることで、気軽に導入いただける点も強みですね。電波法で定められた技術適合(技適マーク※)をきちんと受けている装置ですし、大手通信キャリア2社の試験も全てクリアしたうえで販売しているカメラなので、安心してお使いいただけると思います。

 

※技適マーク…総務省令が定める技術基準適合証明と技術基準適合認定のいずれか、あるいは両方の認証がなされている無線通信機器であることを示すもの。

 

 

 

人口減少社会における生活と行政業務に貢献する

―今後の改善点や開発予定があれば教えてください

実は先日、【VIGILA(ヴィジラ)】を総合的により良いものにしていくために、警察OBの方々に、直接ヒアリングを行ってきました。その内容をもとに、警察が必要な情報を確実に得るための装置開発に着手しています。また、当然ながらAIは100%ではありません。誤認識や見落としも発生します。それを踏まえて、AI自体も継続して追加学習を毎月続けていますので、認識率も徐々に向上していくでしょう。

 

技術開発以外の部分で言いますと、契約の煩雑さを無くすための整備を進めています。【あいわなクラウド】や【VIGILA(ヴィジラ)】のカメラを導入・利用するには、まずカメラの売買契約、サーバーの利用契約、通信キャリアとの契約等、さまざまな手続きが必要になるので、ここを可能な限りワンストップでご提供できるようにしたいです。カメラにもきちんと損害保険をかけて、その手続きを当社が承れるように、保険会社との連携を進めています。

 

というのも、「物を購入する予算は通りやすいけれど、保険料をはじめとしたランニングコストの予算化が難しい」と悩まれる自治体様が多いのです。そこで当社では、個々にご購入・ご契約いただくほかに、レンタルや月額固定の業務委託契約という形でのサービス提供も行っています。SIMの準備や運用に関する一連のサービスが月額料金に含まれますので、年間予算として計上しやすくなるのではないでしょうか。

 

 

―自治体が事情やニーズに合わせて料金プランを選べるのは便利ですね。最後に、全国の自治体様へのメッセージをお願いします

日頃接している自治体職員の皆さまは、常に住民の前面に立って、住民と直接的な関わりを持っていらっしゃいます。住民から寄せられるご意見への対応、地域の課題を解決するための検討・実施まで、日々真剣に、一生懸命に尽力されています。その中で合理的に情報を得ながら業務を進めていくためには、デジタル化を避けて通ることはできません。これから人口が減少していく世の中において、行政がスピーディーかつサービスの品質を落とすことなく地域の発展と市民生活の安寧を実現できるように、我々がお力になれたらと思っています。

 

【あいわなクラウド】選べる3つの料金メニュー


原子力発電所が立地する自治体には、放射線関連製品・サービスも

 

株式会社日本遮蔽技研への問い合わせはこちら

 

 

獣害セキュリティサービス あいわなクラウド

獣害対策用画像認識A.I.搭載ワナ連動通信システム あいわな


 

 

株式会社日本遮蔽技研 企業概要

2010年3月設立、2011年8月創業。親会社は株式会社サンガジャパン 元気グループ
許認可/放射性同位元素等使用許可<原子力規制委員会許可番号 使第7117号>、古物商許可機械工具商<福島県公安委員会許可第251300000381号>、ISO/IEC 17025:2017 認定98357 PJLA
放射線の測定・除染等に関連する事業を展開。特許製品であるコリメータEARTHSHIELD®の開発、ISO/IEC17025:2017認定の放射線測定器校正機関を福島県内で実現した。
その他、災害対応ロボットやレーザー除染システムの開発を手がける。2017年に画像認識AIの独自開発に着手。2021年11月より、獣害セキュリティサービス「あいわなクラウド」の申込受付を開始した。

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