一般社団法人 自治体DX推進協議会

「さるぼぼコインで地域に根付く経済循環」
飛騨市、電子地域通貨で関係人口を拡大

2017年から始まった地域金融機関が運用する電子地域通貨「さるぼぼコイン」が注目を集めている。単なる決済手段にとどまらず、地域内での経済循環を促進している。岐阜県飛騨市はさるぼぼコインを活用し、行政サービスの向上や魅力発信を実施。さらには関係人口へもアプローチをすることで、サービス向上や飛騨地域外の方との接点を作るなど多角的な効果も生まれている。さるぼぼコインの活用実績と今後の展望について、飛騨市役所ふるさと応援課の上田博美氏に話を聞いた。

 

岐阜県飛騨市役所 ふるさと応援課
上田 博美

岐阜県飛騨市役所 ふるさと応援課
上田 博美

飛騨市河合町出身。地元高校卒後、市役所就職。2022年から関係人口事業担当。飛騨市ファンクラブ運営やヒダスケ! 事務局を担う。全国会員との交流で市の魅力再発見。関係人口との関わりで地域活性化を実感。市民と飛騨市に関わる人たちとの良好な関係維持に尽力中。

 

 

電子地域通貨で地域経済を活性化し、関係人口を拡大

 

さるぼぼコインの導入背景と、その効果について教えてください

さるぼぼコインは、地域金融機関である飛騨信用組合が2017年12月に開始した電子地域通貨です。飛騨市としては、地域経済の活性化というさるぼぼコインの理念に共感し、積極的に活用を進めてきました。

 

導入から約7年が経過し、市民の約4人に1人がアプリを利用するまでに普及しています。当初は若者の利用が中心になると想定していましたが、実際には高齢者を含む幅広い年齢層が使用しています。これは、コロナ禍での非接触決済需要や、地域に根付いた信用組合との連携により、丁寧なサポートがあったことが理由だと考えています。事業者様にとっても手数料が安いなどのメリットもあり、現在加盟店は2,000店舗を超え、使用できる範囲も広がっています。

 

さるぼぼコインの活用は、単なる決済手段の提供にとどまりません。地域内での経済循環を促進し、さらには関係人口の拡大にも貢献しています。例えば、「飛騨市ファンクラブ」会員向けの特典や、関係人口創出事業「ヒダスケ!」での活用など、さるぼぼコインを通じて飛騨市とのつながりを深める仕組みを構築しています。

 

 

行政サービスでの活用状況はいかがでしょうか

さるぼぼコインは、市役所窓口での各種手数料の支払いや、公共施設の利用料金の決済に活用されています。また、軽自動車や普通車の税金、固定資産税など各種税金の納付書払いに対応しており、アプリから納付書のQRコードまたはバーコードを読み取るだけで簡単に納付することができます。さらに、さるぼぼコインのプラットフォームを活用した情報発信も行っています。例えば、クマの出没情報や災害情報など、地域の安全に関わる重要な情報をGPSと連動して配信するなど、デジタル技術を活用した新しい形の行政サービスを展開しています。

 

 

体験を通して地域とつながる、関係人口拡大の成功事例「ヒダスケ!」

 

関係人口拡大に向けた具体的な取り組みについて教えてください

これまでに地域外の人との交流を目的とした「飛騨市ファンクラブ」の取り組みによって市と地域外の人の関わりを構築し、15,500名を超える飛騨市のファンをつくることに成功しました。ファンクラブ会員との交流のなかで、地域と関わりたい「関係人口」の存在に気づき、そこから関係人口に関する実験や研究をはじめ、2020年4月に「ヒダスケ! ―飛騨市の関係案内所―」を立ち上げました。

 

「ヒダスケ!」は、飛騨市の関係人口創出・拡大を目的とした取り組みで市民の困りごとや、やってみたいことをオンライン上でマッチングし、市内外の人々が楽しみながら協力して解決する仕組みです。プログラムごとに参加者へのオカエシを用意するのですが、その1つとして、さるぼぼコインをお渡ししています。それによって直接的な地域への関わりだけでなく、経済循環にも寄与することができます。プログラムとしては、農作業や環境保全活動、イベントのサポートなど様々なプログラムがあり、リピーターも増えています。

 

SNSでもプログラムについて積極的に発信していますので、飛騨市を訪れるきっかけのひとつになっていると思います。

 

ヒダスケ!で実施された種蔵のミョウガ畑にて開催されている農作業プログラム。オカエシにはさるぼぼコインを渡す

 

 

成功の鍵はタイミングと多角的な推進体制

 

さるぼぼコインが普及した要因はどこにあるとお考えでしょうか

成功の要因はいくつかありますが、まず導入のタイミングが非常に良かったと考えています。2020年初頭からのコロナ禍で、非接触決済へのニーズが急速に高まりました。その時期に既にさるぼぼコインが運用されていたことで、市民の皆さまにスムーズに受け入れていただけました。

 

また、飛騨信用組合による地道な取り組みも大きな要因です。事業者へのきめ細かなフォローアップや、利用促進キャンペーンの実施など、地域に根差した金融機関だからこそできる活動を展開してくださいました。さらに、市役所としても様々な場面でさるぼぼコインを活用する事業を積極的に推進してきました。例えば、2020年5月に実施した「飛騨市プレミアム電子地域通貨」事業では、10日間で約2億3千万円もの流通額を記録。これは当初の想定を大きく上回る成果でした。

 

飛騨市役所の特徴である、フラットな組織文化も成功の要因のひとつだと思っています。新しいアイデアが生まれやすく、それを迅速に事業化できる環境が整っています。「飛騨市プレミアム電子地域通貨」事業にさるぼぼコインを活用することを発案したのは、飛騨信用組合へ出向していた職員で、トップダウンではなくボトムアップで実現した事業です。この柔軟な組織体制が、さるぼぼコインを活用した様々な事業の展開を可能にしています。

 

 

今後の展望についてお聞かせください

さるぼぼコインは、地域に根付いた仕組みであり、市の事業の中でも、窓口での決済だけでなく、移住に関する奨励品や子育て世帯に対する支援策、ふるさと納税の返礼品など、さまざまなシーンで活用されています。

地域の経済循環だけでなく、さるぼぼコインを通した地域内でのコミュニケーションの1つとして今後も、活用シーンの多様化を図っていければと考えています。

 

関係人口事業においても、さるぼぼコインを活用していくことで、アナログで実施していることをデジタル化するなど利便性の向上、地域内外の方との交流を生み出すツールとしても更なる検討をしていきたいと考えています。

 

(取材日:2024年8月7日)

 

飛騨市役所 ふるさと応援課

〒509-4292 岐阜県飛騨市古川町本町2-22
TEL:0577-62-8904

カテゴリ一覧

アーカイブ

その他の自治体DXガイド

プレミアム商品券・地域通貨のデジタル化で自治体の負担軽減と消費者利便性向上を実現

プレミアム商品券・地域通貨のデジタル化で自治体の負担軽減と消費者利便性向上を実現

「良い人が得をする世界」を実現する<br>ふるさと納税NFT・WEB3事業とは?

「良い人が得をする世界」を実現する
ふるさと納税NFT・WEB3事業とは?

自治体の看板を背負う返礼品の責任<br>「Custos」で挑む、大津屋のふるさと納税<br>品質革命

自治体の看板を背負う返礼品の責任
「Custos」で挑む、大津屋のふるさと納税
品質革命

LINEを活用したふるさと納税の新戦略<br>自治体のリピーター獲得を支援する<br>COMSBIが自治体と寄附者の架け橋に

LINEを活用したふるさと納税の新戦略
自治体のリピーター獲得を支援する
COMSBIが自治体と寄附者の架け橋に

自治体DXガイドの一覧はこちら

無料相談・お問い合わせ

地方自治体と事業者の架け橋となり、デジタルトランスフォーメーションを通じて地方創生を加速するパートナーシップの場を提供します。お気軽にお問合せください。

無料相談・お問い合わせ

TOP

一般社団法人 自治体DX推進協議会