一般社団法人 自治体DX推進協議会

絵手紙一枚から始まる地方創生
―富士吉田市が仕掛けるふるさと納税の新たな物語―

年間25万人を超える寄附者、累計100万人の関係人口、年間寄附額88億円を超える実績─。ふるさと納税制度を活用した地域活性化と関係人口構築の先進事例として大きな注目を集める山梨県富士吉田市では、制度導入当初から寄附者とのコミュニケーションを重視し、地域全体で取り組むふるさと納税を展開してきた。行政・地域・寄附者の三方の目線から見た制度の利点や将来像について、同市ふるさと創生室部長の萩原美奈枝氏に話を伺った。

 

※写真下段中央が萩原さま 富士吉田市 ふるさと創生室のメンバーと

富士吉田市 ふるさと創生室 部長
萩原 美奈枝

ふるさと納税を立ち上げから担当し、今年10年目。立ち上げ当初より返礼品を送って終わる関係ではなく、継続した関係性を作ることに注力。寄附の使い道を明確にしたクラウドファンディングを活用し、これまでに行ったプロジェクトは、すべて目標額を達成し、まちの課題解決に繋げている。

 


 

 

大切にしてきたのは富士吉田市の魅力を伝え、寄附者と心を通わせること

 

富士吉田市のふるさと納税が全国的に注目を集めている要因は何でしょうか

大きな要因と考えられるのは、制度導入当初から寄附者との関係性構築を重視してきたことです。返礼品を送って終わるのではなく、寄附者に感謝の気持ちを伝えることや、富士吉田市のファンになっていただくための取り組みに注力してきました。たとえば、梱包の工夫やお礼状のデザイン、市内の小中学生が書いた絵手紙の同封など、富士吉田市らしさを感じてもらうために重ねてきた細やかな工夫が、リピーターの増加にも寄与したのではないかと思います。SNSで「宅急便の人が富士吉田の箱を持ってエレベーターに乗ってきて、同じマンションに富士吉田に寄附した人がいる!」「絵手紙がかわいくて捨てられない」などの投稿を見かけたときは、本当にうれしかったですね。

 

また、早い段階で専属部署を設置し、市全体でふるさと納税に取り組む体制を整えたことも功を奏したと思います。2017年には専属のふるさと納税担当課を設置し、財政面での支援も含め、市を挙げての取り組みとしてふるさと納税を位置づけました。初期の頃はふるさと納税の将来性に懐疑的な声もありましたが、地域活性化のための重要な手段として粘り強く取り組みを続け、徐々に全庁的な理解と協力が得られるようになったのです。

 

 

人気の返礼品と、その開発背景について教えてください

最も人気があるのは富士山の伏流水を使用した炭酸水ですね。富士吉田市の水は25年から30年前の雨や雪が地下水となって湧き出たもので、雑味がなく大変おいしい水です。その特長を活かし、大手飲料メーカーがこの地で炭酸水を製造しています。この炭酸水には、面白いエピソードがあります。当初、全国の工場で製造された商品を一度中央倉庫に集約して出荷するシステムだったため、富士吉田市以外で作られた商品も返礼品の中に含まれていました。そこで何度も交渉を重ね、富士吉田工場で製造されたものだけを直接発送できる特別なルートを確立。ボトルキャップに刻印された「Y」の文字が、富士吉田産であることを示す証となっています。

 

また、富士吉田市を含むこの地域は日本有数の布団生産地で、寝具も人気の返礼品です。返礼品といえば食品が主流だったので、最初は羽毛布団を返礼品にすることに不安もありました。しかし、地元の事業者からの熱心な提案を受け思い切って導入したところ、予想以上の反響があり、今では寄附額の約4割を占める主力商品に。かつてはOEM生産が中心だった布団メーカーが自社ブランドの開発に乗り出すなど、業界全体の活性化にもつながっています。

 

返礼品開発においては、地元事業者との密接な連携が不可欠です。当市には肉や海産物などの特産品はありませんが、地域の魅力を伝えるための工夫を一緒に考え、実現してきました。この過程で、事業者の方々の地域への愛着や誇りも高まり、より質の高い商品開発につながっていると感じています。

 

富士吉田市のフルーツ「コケモモ」、富士吉田市の「アカガラ」を描いたダンボール

 

 

交流イベントや観光ツアークラウドファウンディング型の寄附で寄附者・住民の満足度向上を図る

 

寄附者との関係構築のための独自の取り組みについて教えてください

毎年開催しているのは、寄附者向けの観光ツアーですね。地元の高校で観光コースを専攻している学生が企画・運営するツアーを実施したこともあります。地域の魅力を発見・再認識する機会になりますし、彼らが心をこめてアテンドする姿に、ツアーに参加した皆さんも大変喜んでくださいました。また、返礼品になっている商品やその生産者の魅力を伝えるギフトカードや冊子、動画なども制作しています。高校生がプロの指導を受けながら、返礼品を生産する事業者を取材し、それぞれの想いや向き合う姿をカードに落とし込み、返礼品と共に納税者の方々の手に届けます。商品だけでなく、気持ちを届け、富士吉田市の空気を感じてもらうためのカードに仕上げています。

 

2024年10月には富士急ハイランドを貸し切って3,000人規模の大型イベントを計画しています。このイベントでは、寄附者2,000人と市民1,000人が参加し、交流を深める予定です。寄附者と市民が一緒に写真を撮ってSNSに投稿したり、富士吉田市にちなんだ〇×クイズに挑戦するなど、楽しみながら交流できる企画をたくさん用意しています。ふるさと納税は往々にして、寄附者と自治体の一対一の関係になりがちですが、市民の方々も巻き込んでいきたいと考えています。それは市民の皆さんもまた、富士吉田市の魅力を発信してくれるパートナーだからです。

 

オリジナルデザインのお礼状で富士吉田市らしさを
伝える


 

 

寄附金の使途も重視されていると伺いました

使い道を明確にして具体的な成果を示すことで、寄附者の満足度向上とリピート率向上につなげています。特に力を入れているのが、クラウドファンディング型のプロジェクトです。例えば、市内の新倉山浅間公園の展望デッキ拡張工事の費用を、クラウドファンディング型のふるさと納税で募りました。1億の目標額に、4億円を超える賛同をいただき、20人程度しか収容できなかった展望デッキが100人以上収容可能になり、年間150万人が訪れる観光スポットとなりました。

ジビエ加工施設の設置も、クラウドファンディングで実現した事業の一つです。この施設はあえて集客施設である道の駅に隣接させることで、処理加工だけでなく、ジビエの販売を通した集客施設として、また、地産地消やジビエ文化について知ることのできる学習施設としても機能する全国的にも例のない施設となっています。以前は捕獲した鹿などを埋設処分していましたが、食肉として活用できるようになったことで、ハンターの方々のモチベーション向上につながり、若手の育成にも寄与しています。

 

また、本町通り商店街の活性化プロジェクトにも、クラウドファンディングを活用しています。富士山と商店街が一体となった独特の景観で人気のフォトスポットなので、その強みを活かしつつ地域経済の活性化を図るのが目的です。まず駐車場とトイレを整備し、中心市街地の賑わいづくりや歴史的建造物を活かした交流の場の整備等のまちづくり活動への支援を行うのための「まちづくりファンド」を創設しました。シャッター街となりつつあった商店街に新たな息吹を吹き込み、観光客と地域住民の双方にとって魅力的な空間を創出することを目指しています。

寄附金の使途を明確に示すとともに、具体的な成果を寄附者に伝えることで、富士吉田市への信頼と愛着を深めていただいています。こうした取組は地域住民の方々にとっても、ふるさと納税の意義や効果を実感する機会となっています。

 

寄附金で改修工事を行った新倉山浅間公園の展望デッキ。寄附者向け観光ツアーの定番スポット

 

 

“地方創生”という、制度本来の目的を見据えて

 

ふるさと納税の理想像と、それを実現するための戦略について教えてください

私たちが目指しているのは、単なる寄附者ではなく、富士吉田市と長期的に関わっていただける方を増やすことです。そのために、ふるさと納税を入口として、様々な形で交流する機会を提供しています。人口減少や高齢化が進む地方都市にとって、関係人口や交流人口を増やすことは重要なミッションです。当市では、社会減の幅が徐々に縮小しています。これは、ふるさと納税を通じて富士吉田市の魅力を広く発信してきたことも、少なからず影響していると考えています。地元の若者たちが地域の魅力を再認識し、地元での就職・定住やUターンを選択してくれることもあるでしょうし、市外からの移住促進にもつながっているのかもしれません。

 

未来に向けた具体的な戦略としては、2023年に「株式会社ふじよしだまちづくり公社」を設立しました。ふるさと納税の運営、地域資源を活用した商品開発や販路拡大、まちづくりファンドの運営という3つの柱で事業を展開しています。行政では難しいスピード感や、人事異動に左右されない継続的な取り組みを実現するための仕組みです。市が100%出資していますが、民間企業の機動力と柔軟性を活かした運営を行っています。

 

ふるさと納税を通じて得た財源は、地域の課題解決や魅力向上のために戦略的に投資しています。そうすることで、住民の方々の満足度が向上し、さらなる関係人口や交流人口の増加や移住促進にもつながるでしょう。一方で、ふるさと納税制度に過度に依存することなく、持続可能な地域経済の発展モデルを構築していきたいですね。寄附者との関係性を大切にしながら、地域事業者の成長支援や新たな地域資源の発掘・活用を進め、富士吉田市全体の魅力向上と経済発展の好循環を生み出していくことが肝要だと思っています。

 

富士山ジビエセンターDEAR DEER(ディアディア)では、鹿肉を使ったソーセージやハンバーガーを提供する

 

 

ふるさと納税制度を取り巻く環境の変化には、どのように対応されていますか?

ふるさと納税制度は、導入以来様々な議論や制度変更がありました。最近では、ポータルサイトのポイント還元規制や大手ECサイトの参入など、新たな動きもありますが、こうした変化に対して柔軟に対応しつつも、基本的な姿勢を崩さないように心がけています。富士吉田市としては、地域の魅力発信と関係構築に引き続き注力していく方針です。大手ECサイトの参入については、寄附者の利便性向上という点では歓迎すべき面もあると考えていますので、これらも皆さんに富士吉田市のファンになっていただけるような工夫を重ねていきたいですね。

 

ふるさと納税で注目され有名リゾートホテルにも採用されている富士吉田産の羽毛布団


 

富士吉田市の魅力を伝える高校生ガイド – 地元の誇りと熱意あふれる観光ツアー

 

 

最後に、他の自治体へのアドバイスがあればお願いします

ふるさと納税は単なる物販ではないと常に意識することが大切だと考えています。返礼品は地域の魅力を伝えるきっかけであり、自治体からの感謝の気持ちを表すものです。冒頭でお話した絵手紙や梱包箱のように、お手元に届いたときに「富士吉田」という名前が少しでも印象に残ることが重要なのではないでしょうか。ふるさと納税を通じて地域の魅力を全国に発信することで、関係人口や交流人口を増やすチャンスにも繋がります。また、地元の事業者、学校、市民の方々など、地域ぐるみで取り組むことも成功の鍵です。そうすることで、郷土愛や地域の産業に対する誇りが育まれ、より魅力的で持続可能な取組になると思います。富士吉田市の取り組みが、少しでも他の自治体さまのお役に立ちましたら幸いです。

 

(取材日:2024年8月7日)

 

富士吉田市 ふるさと創生室 ふるさと寄附推進課

〒403-8601 山梨県富士吉田市下吉田六丁目1番1号

TEL:0555-22-1111

https://furusato-fujiyoshida.jp/

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