新潟県三条市は、古くから「ものづくりのまち」として知られ、刃物・金物をはじめとする高品質な製品を全国に送り出してきた。
同市のふるさと納税の寄附額は2020年度の約7億円から2022年度の50億円超へと飛躍的に成長したが、その過程で選んだのは中間事業者への全面委託ではなく「直営」という道だった。
外部人材の知見を活かしつつ、職員自らが事業者と向き合い、サイト運営から制度変更の説明まで一手に担う体制はいかにして築かれたのか。ふるさと納税担当の滝沢祐貴氏に話を聞いた。

三条市 経済部 営業戦略室
ふるさと納税推進担当 滝沢 祐貴
2013年三条市入庁。営業戦略室(シティプロモーション・観光)を経て、福島県南相馬市への出向(2年間)、収納課を歴任。2022年よりふるさと納税担当として直営体制の構築・運営を推進し、現在5年目を迎える。
直営のスタートは市長の意向 まずは外部人材の採用を
ふるさと納税を直営で運営するに至った経緯を教えてください。
2020年11月に就任した滝沢市長が、「ふるさと納税を活用して三条市をPRしたい」という方針を打ち出したのがきっかけです。2021年の夏にビズリーチを通じてCMOを全国から公募し、314名の応募の中からNetflixやDAZNなどでマーケティングに携わってきた澤正史氏を採用しました。
当初は外部委託体制が残っていましたが、ふるさと納税の趣旨である『自治体自身が地域の魅力を見つめ直し発信する』に立ち返り、中小企業が多いものづくりのまちだからこそ、市役所職員も同じビジネス感覚で事業者と歩むべきとの考えの下2022年に直営へと切り替えました。
直営にしたことで、どのような変化がありましたか。
一番大きいのは、市役所が汗をかいている姿を事業者さんがしっかり見てくれているということです。「市役所が頑張っているなら協力してもいいよ」と言ってくださる事業者さんが増えてきました。
今では200を超える事業者さんに参画いただき、返礼品も3,300点以上になっています。
直営で事業者と日常的にやり取りをしていると、市内の産業構造がよくわかるようになる。正直、どこの部署よりもふるさと納税担当が一番詳しい情報を持っていると思っています。

イベント会場で三条市の魅力を発信。「市役所が汗をかく」姿勢が事業者との信頼関係を支えている
直営ならではの意識の変化はありましたか。
民間のスピード感に合わせるという点ですね。事業者さんの希望するタイミングに合わせて、スケジュールを組んでいく姿勢を当初から徹底してきました。
現在は6名体制で、事業者さんとの窓口やサイト管理を市が直接担い、コールセンターや配送は委託しています。職員全員がサイトの更新や画像作成ができるようにしていて、新しく来た職員には最初の1ヶ月間は、自分でページを一通り作ってもらっています。
仕事を任せ、人を育てる外部人材が果たした役割
澤氏の退任後も成果が維持されている要因は何でしょうか。
澤さん自身が「自分がいられる時間は有限だ」とよく言っていて、最初は自分でやっていた仕事も、どんどん職員に任せてくれました。それもあって最後の半年間は、澤さんがいなくても各自が業務を回せるようになっていたんです。
後に、「自立した組織を作ることが一番のミッションだった」と仰っていました。澤さんは2024年3月末に退職され、現在は三条市で起業されていますが、今もアドバイザーとして関わっていただいています。
外部人材活用のアドバイスはありますか。
外部人材を入れるなら、職員もしっかりコミットすることが大事です。任せきりにしてしまうと、いなくなった途端に回らなくなる。
ただ、いきなり直営にすると何をやっていいかわからないので、最初はリードしてくれる人がいた方がいい。澤さんがリードしてくれたからこそ、やりながら知識が身についていった部分は大きいです。
10月からの付加価値基準への対応はいかがですか。
実は昨年の7月から準備を進めていました。制度の方向性が見えた段階で早めに動こうと、事業者さんに丁寧に説明して回りました。
一般販売価格の公表を含む要件については戸惑いの声もありましたが、もともと制度改正のたびに丁寧に説明を続けてきたので、事業者さんも制度の流れを理解してくださっている。やはり普段からの信頼関係と、自治体職員が自分たちの言葉で説明してきたことが大きかったと思います。
ふるさと納税の「先」を見据え寄附額を追わない
三条市がふるさと納税を通じて目指す姿をお聞かせください。
三条市は基本的に寄附額を追いかけていません。ふるさと納税はあくまで“手段”です。
2025年度は19万件の返礼品を発送し、全国の19万人に三条市の産品を手に取っていただけました。ふるさと納税を通じて三条市のファンになっていただいて、地域ブランドの向上につなげていくのが一番の目標です。
事業者さんには「他の販路を削ってまでふるさと納税に出品しないでください」とよく言っています。国の制度としていつなくなるかわからない中で、収入の柱を一本にするのはリスクが大きすぎるからです。
ふるさと納税で得た資金で他の販路を作ったり、設備投資に充てたりしてほしい。実際に、ふるさと納税をきっかけにECやBtoCに初めてチャレンジする事業者さんも出てきていて、こうしたきっかけづくりができたことは三条市として頑張る意味があるなと感じています。
今後取り組みたいことや課題について教えてください。
やりたいことはたくさんあります。寄附金の使い道をもっと発信したいですし、毎年寄附してくださっている方々とつながる活動もしていきたい。
シティプロモーションと絡めた取り組みも、もっとできるはずです。課題はノウハウの継承ですね。ふるさと納税の業務は属人化しやすいので、今年はしっかりと後継者を育てていきたいです。
あとは、ふるさと納税を通じて見えてきた事業者さんの課題を、庁内の他部署ともっと連携して支援していくこと。今後はそこにもしっかり取り組んでいきたいと思っています。
(取材日:2026年 4月3日)
三条市 経済部 営業戦略室
ふるさと納税推進担当
〒955-8686 新潟県三条市旭町2-3-1
TEL:0256-34-5519(直通)





