まちの掲示板

自治体インタビュー

日本一チャレンジしやすい町へ。
アイデアを”カタチ”にする官民連携フィールドの作り方

埼玉県横瀬町を、アイデアやプロジェクトを“カタチ”にする実証フィールドへ! 2016年にスタートした官民連携プラットフォーム『よこらぼ』は、企業の規模や個人・団体を問わず、熱意ある誰もが参画できる「チャレンジのフィールド」を提供している。民間からの「やりたい」という想いを起点とした、圧倒的なスピード感での伴走支援。このユニークな共創の仕組みが、人口約7,500人の小さな町を「日本一チャレンジしやすい町」へと押し上げ、全国の自治体から大きな注目を集めている。

 

 

横瀬町役場 まち経営課 連携推進室
田端 将伸

1993年(平成5年)に横瀬町役場へ入庁。税務、財政、観光などの部署を経て、2016年4月より現職のまち経営課へ異動。同年9月にオープンした官民連携プラットフォーム『よこらぼ』の立ち上げから現在まで、中心的な役割を担う。30年以上にわたり横瀬町に根差し、町の発展を見守り続けてきた。

 

 

“企業誘致”から“事業誘致”への大転換

 

『よこらぼ』が始まった経緯についてお聞かせください。

横瀬町は高速道路から離れた山間地域で、昭和50年代以降、特段企業誘致の実績がありませんでした。全国の自治体が企業誘致合戦を繰り広げるレッドオーシャンの中、同じ土俵で戦っても勝ち目はありません。転機となったのは、あるスタートアップ企業の社長と現職の町長が交わした立ち話でした。社長の「東京には実証実験の場を求めるスタートアップが山ほどいるのに、きっかけがない」という言葉を聞いて、町長が「これだ!」と閃いたのです。「企業」ではなく「事業やプロジェクト」を誘致するという、発想の転換でした。これこそが、知名度や予算規模で劣る横瀬町でも勝負できる、唯一のブルーオーシャンではないか、と。こうして、「あなたの“やりたい”を、町民にメリットがありそうであれば、何でも受け入れます」という、前例のない官民連携プラットフォーム『よこらぼ』が誕生しました。

 

官民連携の具体的な仕組みや、町の支援体制とは?

私たちは「この課題を解決してほしい」と仕様書を作ることはしていません。それでは行政の頭の中にあるアイデアしか生まれないからです。「まずは皆さんの“やりたいこと”を聞かせてください」と呼びかけ、どう伴走できるかを一緒に考えます。支援の核はスピード感。審査会を毎月開催し、採択した翌日には「いつミーティングしますか?」と連絡します。これに驚いた採択者の方々がSNSや口コミで広げてくれたので、外向けの広報に費用をかけたことは一度もありません。また、事業者さん同士を繋げることも私たちの重要な役割だと考えています。電動キックボードのLUUPさんが国内初となる公道での実証実験を行った際には、別事業で採択されていた立教大学観光学部の学生たちに乗ってもらいました。『よこらぼ』内で新たな連携を生み出し、チャレンジを加速させていく。これが私たちの支援スタイルなのです。

 

これまでの成功事例をいくつかご紹介ください。

特に印象的だったのは、2017年頃に「地域の課題をクリエイティブの力で解決したい」というクリエイターの提案から始まった「横瀬クリエイティビティー・クラス」です。総務大臣補佐官(当時)や、名だたる企業のトップクリエイター約30人が手弁当で集まり、町の中学生たちと一泊二日のワークショップを実施。最初の中学生の申込は3名でしたが、最終的には多くの生徒や保護者、学校の先生をも巻き込む大きなうねりとなりました。この取り組みで生まれたミュージックビデオなどの作品は海外で数々の賞を受賞し、参加したクリエイターたちは今も横瀬町と深く関わり続けています。外部に触発されて、町内から新しいチャレンジが生まれたことも、大きな成果ですね。他にも、民間主導による有害鳥獣の解体施設が建設されるなど、チャレンジが次のチャレンジを呼び起こす好循環が生まれています。

 

分野を問わず、多様なプレイヤーの「共創」を促すよこらぼ。第1期(2016年~2023年)では、234件の応募に対して141件のプロジェクトが採択された

 

 

「継続は力なり」が乗り越えた壁

 

民間事業者との連携において、どのような困難がありましたか。

一番大変だったのは、圧倒的な業務量。あまりの多忙さに、一時期は新規の受け入れを停止せざるを得ないほどでした。もう一つは、町民や議会からの理解を得ることの難しさです。当初は「何をやっているのかわからない」「道路の一本でも造ったほうがいいのでは?」という声が本当に多かった─。『よこらぼ』の取組を解説した冊子を作って全戸配布しても、なかなか理解は広まりませんでした。

これを解決したのは特別な策ではなく、「やり続けたこと」だと思います。5年、6年と地道に継続し、国からの表彰を受けたり、メディアで取り上げられたりするうちに、少しずつ評価が変わっていったのです。説明に時間を割くよりも、スピード感を落とさず実績を積み上げることを優先しました。まさに「継続は力なり」だったと実感しています。

 

横瀬町ふるさと納税の返礼品に、田端氏のアテンドする「横瀬町ツアー」が登場。「人が町の価値になる」という熱いメッセージを発信する

 

今後の『よこらぼ』が目指す未来像についてお聞かせください。

『よこらぼ』の最終形というものはありません。時代の変化に合わせて、アメーバのように柔軟に形を変え続けることこそが、この取組の価値だと考えています。『よこらぼ』と共に歩んできた横瀬町は、今とてもポジティブな町です。コロナ禍でも物価高でも、嘆くのではなく乗り越えるための前向きなアクションが自然に生まれています。横瀬町なら、どんな未来が来ても、このチャレンジャーたちと一緒に乗り越えていける─。そんなワクワクする感覚が、今の町の原動力になっています。

 

「官民連携DX」に取り組みたい全国の自治体へメッセージをお願いします。

私たちがやってきたのは、特別なことではありません。空き家を少し改修してみる、小さなスペースを貸してみる。そんな小さな変化の積み重ねが、町の大きな力になりました。行政職員が「やれないこと」ではないのです。民間企業での勤務経験すらない私のような51歳のおじさんがやっているのですから、誰にでもできるはず。皆で手を取り合って、それぞれの地域でチャレンジが生まれれば、日本はもっと面白くなると思います。

 

(取材日:2025年8月7日)

 

よこらぼ(官民連携プラットフォーム)

横瀬町役場まち経営課 連携推進室

〒368-0072 埼玉県秩父郡横瀬町大字横瀬4545番地

TEL:0494-25-0112

https://yokolab.jp/

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