一般社団法人 自治体DX推進協議会

ふるさと納税の革新をリードする
「ふるなび」が描くふるさと納税の未来

2008年に制度開始となった「ふるさと納税」。当初は制度の認知度が低く利用者も限られていたが2012年頃からポータル事業者が介入し、地方自治体と寄附者をシームレスに結びつける中心的役割を果たすことで一気に普及。制度は急速に拡充。その規模は年々増加し、令和4年度は、受入額約9,654億、受入件数約5,184万件と過去最高となった。この成果に寄与してきたポータル事業者の一社である「ふるなび」(運営会社:株式会社アイモバイル)の事業立ち上げから10年間関ってきた加藤秀樹氏に話を伺った。

 

 

株式会社アイモバイル 執行役員 事業企画本部 本部長 加藤 秀樹様

株式会社アイモバイル
執行役員 事業企画本部 本部長 加藤 秀樹 プロフィール
  • 2004年インターネット広告代理店にてEC、保険、不動産ディベロッパーをはじめとしたメディアプランニングの企画・立案に携わる。
  • その後スマートフォンアプリ会社の立ち上げなどを経て2013年株式会社アイモバイル入社。
  • コンテンツ事業部長を経て2014年事業企画本部長、ふるさと納税サイト「ふるなび」を立ち上げ2017年当社執行役員。
  • 現在、全国約1,200を超える自治体と契約を行い、ふるさと納税の寄附受付の他、地域資源の発掘なども行う。


 

 

独自の戦略で差別化を図る

 

―ふるなびの概要と、現在提供されているサービスについて教えてください

2014年にふるさと納税を通じて全国の市町村に寄附金を集める、地域活性化を支援することを目的に、ふるさと納税総合サイト「ふるなび」をリリースしました。2023年11月現在の掲載自治体は1273、39万点以上の返礼品を掲載しています。他にも、品選びを好きなタイミングでカタログから選択できる「ふるなびカタログ」をはじめ、「ふるなびトラベル」、「ふるなび美食体験」、「ふるなびクラウドファンディング」、「ふるなびプレミアム」など、多角的に展開しています。

 

「ふるなびカタログ」「ふるなびトラベル」「ふるなび美食体験」「ふるなびクラウドファンディング」「ふるなびプレミアム」など多角的なふるさと納税サービスを実施

 

 

―独自のサービス展開が印象的です

複数あるふるさと納税ポータル事業者の中で、オリジナリティあるサービス戦略を展開し、地方自治体に密着したサービス開発を図りたいと考えて取り組んできました。
ふるさと納税の黎明期の返礼品は主に食品が中心でしたが、一定以上の納税額の方や単身世帯の方だとせっかく届いた食材を保管できない、調理しきれないといったこともあり、返礼品のセレクトに困っていた自治体様がいらっしゃいました。そこで実用性の高い家電製品を返礼品のラインナップに加えたことで多様な寄附者の関心を引き付けることができました。
さらに、高額納税者向けのサービスとして、返礼品の選定から決済までを一括して行う「ふるなびプレミアム」を導入。寄附者の負担を軽減すると同時に寄附プロセスを効率化できたことで、多くの寄附者の方々に支持されています。

 

―担当した中で、特に印象深いケースは

自分が関わった中だと、「ふるなびクラウドファンディング」におけるとある自治体の取り組みです。このプロジェクトは、同自治体内のエアコン未設置の幼稚園、保育園、小学校にエアコンを設置するというものでした。
無事に目標金額を達成して子どもたちに快適な環境を届けられたこともそうですし、設置したエアコンも地場の産業を使って導入できたこと、何より自治体関係者に感謝され、プロジェクトに関わったメンバー全員が感動したことを今でも鮮明に覚えています。ふるさと納税クラウドファンディングは、地域が直面する具体的な課題に対して寄附者の想いを直接反映できる、非常に魅力的なサービスだと実感しています。

 

ふるさと納税クラウドファンディングは、応援したいプロジェクト(使い道)に直接寄附できる仕組み

 

 

段階的な規制強化で「ふるさと納税」はどうなる?

 

―「ふるさと納税」は、これまでに幾度かの制度改定が行われて今に至っています

大きなところをピックアップすると、2015年にワンストップ特例制度が開始、税控除プロセスが簡素化されたことで利用者が急増しました。一方で、当時は明確なルールや罰則がなかったこともあり、返礼品の内容や価値に関して様々な議論が生じていました。そして2019年に返礼品は「寄附額の3割以下」であり「地場産品」と定める法規制が行われ、さらに2023年10月には、返礼品は「寄附額の3割以下」であり、かつ発送などの経費まで含めて「寄附額の5割以下」が厳格化されました。

 

―昨今では、特に都市部において本来その自治体に帰属するはずの大規模な財源が他の自治体へと流出し、一部の自治体からは懸念の声もあがっています

ふるさと納税は地方の自治体を支援する目的で始まっていたこともあり、都市部の自治体の姿勢としてはこの制度から距離を置く傾向にありました。しかし、例えば東京23区の状況を見ると、区民税の流出額が2022年度に708億円を超えるなど顕著な財源流出が発生し、行政サービスに支障をきたすという危機感も生まれています。何もしなければ流出する一方であることも事実で、昨今では都市部の自治体の積極的参入が目立っています。
一方で、納税額を増やすことに注力しすぎ、自治体規模にそぐわないほどの寄附金が集まってしまった事例もあります。自治体側も寄附側も、寄附や寄附金用途、目的を明確にすることや必要なところにしっかり届けることなどが求められていると感じます。

 

―指摘のように、ふるさと納税制度のひずみもたびたび問題視されています

返礼品は、ふるさと納税の文化を創り上げてきたといっても過言ではありません。議論になることは多いものの、ふるさと納税に意識を向けなければ知りえなかった自治体や地場産品があることも事実で、新たな関係人口の創出に繋がるなど、ポジティブな影響も多くあります。また、使い道を指定することができる点も特定の地域問題への貢献意識を高める機会を提供しています。幾度かの改正でルールが厳格化されていることを寄附者側の目線で“改悪”と表現されることもありますが、制度の健全化や持続可能性といった点において適正な形になってきているという点で評価できると思います。

 

―直近の改正について、自治体からの声や意見などは届いていますか

「5割ルール」の導入を受けて、返礼品の内容や量的な見直しなども含めて試行錯誤されている様子です。我々としては、例えば現在は郵送しているものを電子化することで経費削減と効率化を図ってはどうか、という提案をさせていただいている自治体もあります。ふるさと納税をきっかけに、自治体のDXがさらに推進されることが望ましいとも感じます。

 

 

ふるさと納税トレンドが変化する中、独自性と提案力で市場のリードを目指す

 

―今後のふるさと納税の在り方については、どのようにお考えでしょうか

まず挙げられるのは、返礼品の傾向が変化していることです。これまでの物理的な“品”に加えて“体験型”が増えています。要はモノからコトへの転換ですね。地場産品に対する規制が強化されたという背景から来る影響なのですが、当社の「ふるなびトラベル」のように、実際に現地を訪れてもらうサービスを提供していることもその一環ですし、我々以外の事業者もそこに着目しています。
特に観光に強い自治体は、この新しい動向を活用したプランを前面に出しています。一方で、観光地でない自治体でも、ユニークでプライスレスな体験を提供し、注目を集めています。
体験型返礼品の良さは、自分が寄附した自治体に行き、自治体を直接見て感じてもらう機会を提供しているところで、その自治体の新たな魅力発見につながる可能性を秘めています。

 

―特産品や観光資源が乏しく、ふるさと納税に苦労している自治体もあるという声もあります

確かに、特産品や観光資源が豊富な自治体はふるさと納税を集めやすいのは事実ですが、アイディア次第で、特産品や観光資源がない自治体でも寄附を集めることは可能です。例えば、静岡県裾野市では、映画やドラマのアクションシーンを撮影する屋外スタジオがあり、「爆破体験ツアー」がふるさと納税の返礼品として検討されています。このように、もともと観光資源ではなかったものが、ふるさと納税の返礼品開発を通じて観光資源として発見されていきます。
また、個人的な提案として、ふるさと納税の返礼品に「畑の貸し出し」を加えるのも面白いと思います。地方の使われていない土地を、ふるさと納税をした人が借りて好きな作物を育てることができます。畑を使うためには定期的な訪問が必要となりますし、そこで育てた作物をふるさと納税の返礼品にするなど、様々な可能性が広がるのでは、と思います。

 

―地域のファンを作るきっかけが生まれますね

様々なアプローチで関係人口を創出するというトレンドもありますが、自治体に興味を持ってもらえたら定期的な往来や交流に繋がるかもしれない。地域と人々を結びつける柔軟な考え方で関係性を築いていくことができたら、それが最も望ましい形だと思います。

 

―「ふるなび」としては、今後どのように自治体に寄り添っていこうと考えていますか

まず1つ目は「報告」に力を入れること。現状では、返礼品の配送が完了した段階で寄附者との関係が終わってしまうことが多いのが事実で、それが「ふるさと納税=通販」だと揶揄されてしまう一因かもしれません。先ほどクラウドファンディングの例を出しましたが、純粋なふるさと納税においても寄附金の使い道やその寄附が地域にもたらした具体的な変化を寄附者に届けていくことで、寄附者にとって充実した寄附体験だという手ごたえを感じて欲しいです。
2つ目は、「提案」です。「ふるなび」がスタートしてから約10年、私自身日本中の自治体を巡ってその土地の風景を見てきました。「うちには何もないんです」と言われる自治体も、まだ気づいていない観光資源があり、そういった魅力を引き出したいと思って関わってきました。未発掘の魅力を見つけ出し、その価値を最大化できるよう、返礼品の開発支援から始まり、ふるさと納税の効果的な運用に至るまで幅広く展開できたらいいなと考えています。
当社は常に差別化を図る意識で事業を開拓してきました。その提案力を活かしながら自治体と寄附者の双方に価値ある体験を提供し、ふるさと納税制度のさらなる発展に貢献していきたいです。

 

ふるなびを運営するアイモバイル。おしゃれなオフィスでも有名

(取材日:2023年11月29日)

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