自治体職員も住民も救いたい
LINEで使えるスマート公共ラボ
AIコンシェルジュの実力
「手続きに必要な書類は?」「ゴミの分別方法がわからない」──自治体への問い合わせで最も多いこれらの質問。
ホームページで迷子になった住民が電話で問い合わせ、職員は同じ説明を繰り返す。この悪循環を断ち切るため、プレイネクストラボが開発したのが「スマート公共ラボ AIコンシェルジュ」だ。160以上の自治体で導入されている「スマート公共ラボ」を生んだ同社が、満を持して送り出すAIサービスで、自治体DXを加速させる。
プレイネクストラボ株式会社 GovTech事業部 事業部長
鈴木 勝
ヤフー株式会社(現LINEヤフー株式会社)でマーケティング本部長等を務めた後、上場IT 企業の取締役マーケティング本部長、ヤフーカード(現PayPayカード)CMOマーケティング本部長、スタートアップを経て、2023年より現職。2024年からは『スマート公共ラボ AIコンシェルジュ』を展開。「使われるシステム」の提供にこだわり、現在160以上の自治体にサービスを提供している。
AIが迷える住民を救い、職員の仕事を変える日
スマート公共ラボ AIコンシェルジュを開発されたきっかけを教えてください。
私たちはLINEを活用した「スマート公共ラボ」という自治体向けサービスを展開していて、もともとあった「for GovTechプログラム」「電子申請」「施設予約」の機能に、新しく「スマート公共ラボ AIコンシェルジュ」を追加したんです。「スマート公共ラボ」自体は2020年から提供していたのですが、当時からある課題にぶつかっていました。それは、LINEでメニューを作り、できるだけわかりやすく誘導しても、その先のホームページで住民の方が迷子になってしまうことがある、という課題です。自治体のホームページは、更新順に情報が並んでいるだけだったり、PDFがGoogleのインデックスに引っかからない設定になっていたりで、探しにくいことが多いんですよね。住民はゴミの分別方法を知りたいだけなのに、なかなか目的のページに辿り着けず、結局あきらめて電話で問い合わせてしまう─。
そこで思いついたのが、「ホームページを改修するのではなく、ホームページに載っている情報をもとにして、AIに答えさせればいいんじゃないか」という発想の転換でした。ホームページの改修には、数千万円レベルのコストがかかる場合があり、高額になってしまいます。しかしAIが検索して回答してくれるのであれば、情報さえ更新しておけば、わざわざホームページを改修しなくてもいい。結果的に、住民の皆さんも職員の皆さんも両方が楽になるのではないかと考えました。

スマート公共ラボ AIコンシェルジュが目指す姿。ホームページを改修する必要はなく、最適な回答を届ける
技術的にはどのような仕組みなのでしょうか?
ChatGPTのGPT-4oをベースに、RAG(Retrieval-Augmented Generation/検索拡張生成)技術を組み合わせています。簡単に言うと、ChatGPTで質問を理解して、RAGが質問に関連する情報を探してきて、それをもとにChatGPTが回答を作る、という仕組みですね。肝は、単なるChatGPTではない、ということです。例えば自治体のホームページやドキュメント、エクセルファイルなどを学習させて、さらに国税庁のURLなども指定して読み込ませることができます。参考にする情報の優先順位も設定できるので、まずは学習データから回答を探して、情報がなければ自治体のホームページを検索します。それでも適切な回答ができない場合には、正直に「回答できません」と答えさせます。
宮若市での実証実験が、証明した成果とは
福岡県宮若市で実装されているそうですね。
宮若市様とは1年半前に実証実験から始めました。職員の皆さんに使っていただくうちに、徐々に「これはいい」という声が広がっていったのです。実証実験がうまくいったので、プロポーザルを経て本格導入していただきました。宮若市様の担当者の方から言われて印象的だったのは、「将来的には、ドキュメント管理が不要になる」という言葉でした。これまで職員の方々は、様々な資料やマニュアルを管理し、さらには見やすく整えてから更新する必要がありました。でもスマート公共ラボ AIコンシェルジュがあれば、ホームページの情報を更新するだけで、自動的に最新情報を提供できるようになるんです。
具体的にどのような質問に答えているのですか?
本当に幅広く使えるのですが、定番はやっぱり手続き系ですね。「出産子育て給付金の申請方法を教えてください」「国民健康保険の申込方法を教えてください」といった質問や、各種手続きの必要書類、施設の利用時間、子育て支援の内容、税金の納付方法など、いろんな問い合わせに対応できます。他に住民からの問い合わせが多いところでは、ごみ分別の質問などにも答えることもできます。また、管理画面にもチャット機能があり、職員がスマート公共ラボ AIコンシェルジュに質問することもできます。職員さん同士の問い合わせ削減にもつながっていて、業務マニュアル的な使い方もできるんですよ。
職員間での活用シーンを教えてください。
例えば確定申告の時期などは、担当部署以外の職員さんも住民の方から質問を受けることが多くなるそうです。そうすると、わからないことがあったら担当部署に確認しながら対応していくことになりますよね。そんなとき、担当部署の職員さんに内線コールをかけたり、聞きに行ったりする代わりに、スマート公共ラボ AIコンシェルジュで調べられるんです。もし担当者がつかまらなくても、裏でスマート公共ラボ AIコンシェルジュに聞きながら答えられるので、職員の皆さんも安心できるのではないでしょうか。新規採用の職員さんや、異動してきたばかりの職員さんが、先輩や前任者に聞きたいけどなかなか聞けないから、こっそりAIに聞いて勉強する、なんてこともできると思います(笑)。

「スマート公共ラボ AIコンシェルジュ」の特長。学習データをラベル毎に分類し、多言語対応も実現した
徹底して追及したのは、「使われる設計」の実現
LINEで提供することのメリットは何でしょうか?
住民の方々に新しいアプリをダウンロードしてもらうのは、本当に大変だと思います。自治体が独自のアプリを作っても、ダウンロード数が増えない。ウェブサイトにチャットボットを置いても、チャットボットは使い慣れていないのであまり利用されない。でもLINEは違います。福岡県春日市様では、人口に対して約62%がLINE友だち登録をしていて、50歳以上の登録者もかなり多くの割合を占めています。LINEはもう、みんなが普段から使い慣れているツールなんですよね。「個人的にはLINEを使っていなかったけれど、市のサービスがきっかけで始めました」というご高齢者の方もいらっしゃいました。「一人暮らしだけど、LINEで情報が届くだけで気持ちが楽になる」と書かれたアンケート結果を見た時は、本当に嬉しかったですね。LINEならプッシュ通知で防災情報なども送れますし、普段使いのツールの中に行政サービスが溶け込んでいくことが、何より重要なのではないでしょうか。
他社との差別化ポイントは何でしょうか。
一番の違いは、「使われることが目的」という考え方だと思います。例えば、他社の電子申請システムでは、初回利用時に約30ものステップが必要になります。ホームページからアプリをダウンロードして、初期設定して、メールアドレスを登録して─。あまりに複雑なので、各ステップを踏むたびに離脱が起きて、最終的には数パーセントしか残らないのです。実際に、電子申請の利用者が増えなくて悩んでいた自治体様が、私たちのシステムに切り替えてLINE上で完結するようにしたら、利用率が大きく上昇したという事例もありました。スマート公共ラボ AIコンシェルジュも同じ考え方です。「住民が本当に聞きたいことに、選択肢を提示するのではなく、最適な回答を返す」という点に特化しました。Googleさんの検索結果も、利用者がサイトを選択する方法からAIが最適な回答を表示するようになっている点は、同じ考えだと思っています。
自治体職員の目線から見た効果を教えてください。
スマート公共ラボ AIコンシェルジュについては前述のとおりですが、スマート公共ラボの電子申請では、「郵送請求への対応が半分の時間で処理できるようになった」という声がありました。これから人口が減って、自治体職員の人数も減って、一人ひとりの業務は増えていきます。そこで溢れてしまった業務をDXで解消していく─。DX化には最初に越えなければいけないハードルやハレーションがあるかもしれません。でも、それを乗り越えて使いこなしていけば、未来は拓けるかなと思っています。

主力サービスの「for GovTechプログラム」は、細かな受信設定による効率的なメッセージ配信機能など、重要機能満載の便利なパッケージプラン

登録者数アップには、広報誌掲載やチラシ配付などの“継続”が鍵。自治体の要望に応じてPR支援も可能
これからの自治体DXで、真に求められること
今後の展望について教えてください。
スマート公共ラボ AIコンシェルジュは、まだ始まりに過ぎないと思っています。今は主に問い合わせ対応ですが、将来的には住民一人ひとりに最適化された情報提供ができるようになっていくでしょう。例えば、子育て世代には子育て支援の情報を、高齢者には健康診断のお知らせを、その人のライフステージに合わせてプッシュ型で提供する─。民間企業では当たり前のCRM(顧客関係管理)が、自治体様でも必要になっていると感じています。
自治体様のマーケティングというと、シティプロモーションなどにフォーカスされがちですが、まずは地域の住民に対する目線が大事だと考えています。本当は、その土地に住む住民の方々からの信頼を得ることや、エンゲージメントを高めることこそが優先されるべきですし、これは自治体職員の皆さんの本来の願いでもあると思っています。そういうことを積み重ねていけば、住民の方々からの評判も自ずと高まるのではないでしょうか。

プレイネクストラボが目指す自治体DXの進化。使われる設計にこだわり抜いた「スマート公共ラボ」が、住民と職員の双方を新しいフェーズへと導く
最後に自治体へのメッセージをお願いします。
DXやデジタル化と聞くと、「導入が大変そう」「操作が難しそう」と思われるかもしれません。でも、スマート公共ラボ AIコンシェルジュは違います。導入は弊社で支援し、管理画面はカテゴリ毎の回答率の表示やチューニングが必要なドキュメントやURLが表示され、情報更新の作業も容易に操作できるようになっています。何より、職員の皆さんが本来やるべき仕事に集中できるようになるためのツールなんです。同じ質問に何度も答える時間を、住民との深い対話や政策立案に使える。それが本当の意味での行政サービスの向上だと思っています。
今まで、たくさんの自治体様と一緒に歩んできました。その経験から言えるのは、「住民に使われるシステムを導入すること」の大切さです。ホームページのリニューアルを検討するより先に、スマート公共ラボ AIコンシェルジュで問い合わせ対応を始める方法もあると思います。また、現在導入しているシステムが利用されているか、職員側の管理画面は使いやすいか、ということを再確認して、操作性が優れたシステムに切り替えることも大切だと思います。より多くの住民の皆さんに使ってもらい、結果的に職員の方々にも喜ばれる自治体DXを実現したいと思います。
(取材日:2025年6月4日)