地域の魅力を効果的に発信し、交流人口・関係人口を増やすシティプロモーションの新たな手法として、現地体験と連動したDXの活用が注目されている。株式会社ユニヴァ・ペイキャストが提供する「ココふる」は、地域を訪れた人々が体験を通じて絆を深める「現地消費型ふるさと納税」の仕組みで、イベントや観光施設などでQRコードを読み取るだけでその場で寄付と体験ができる。決済テクノロジーを地域活性化につなげ、地域と人を結ぶ新たな関係構築に挑戦する中尾氏に、シティプロモーションの新潮流について伺った。

仕事で定期的に訪れる人も「関係人口」になり得ると語る中尾氏
株式会社ユニヴァ・ペイキャスト代表取締役
中尾 周平
2004年より同社に在籍し、キャッシュレス決済事業の拡大に携わる。
2018年に代表取締役社長に就任。
現在は、キャッシュレス事業にとどまらず、「ココふる」等の地域向け施策を推進し、地域課題の解決や関係人口創出に精力的に取り組んでいる。
コロナ禍から生まれた発想。地域経済の活性化を目指して
ふるさと納税に参入したきっかけは?
当社は元々、インバウンド向け決済ソリューションを提供していました。特に2013年頃からインバウンドの活気が高まり、中国の“爆買い”に対応するためのサービスを展開していました。しかし、コロナが発生してインバウンド客が激減し、地方創生を掲げる地域の観光客も減少。決済を生業とする我々の売上も影響を受けました。そこで観光分野で我々が貢献できることは何かと考えた時に、ふるさと納税の仕組みを活用した体験型消費という発想に至りました。
将来インバウンドが回復する時に備え、まずは国内の観光客が食や文化など地域の素晴らしいコンテンツや人との交流など多様な体験ができる環境を整えることが、観光の促進につながると考えました。
「ココふる」の特徴を教えてください
ココふるは“アドオン型”と呼んでいるアプローチを取っています。これは既存のふるさと納税の仕組みに加えて、現地で直感的に消費できる体験型のサービスを提供するというものです。例えば、ふるさと納税をした後、どこの地域に寄付したか忘れてしまうこともありますよね。でも、旅の思い出は心に残ります。景色や人との交流などの体験は、記憶に強く残るものです。そうした体験こそが、ふるさと納税本来の趣旨、地域に還元し、親しみを持ってもらうという目的に通じていると考えています。
また、ココふるは利用者にも事業者にも使いやすく負担が少ないのも特徴です。利用者はポスターやチラシに表示されたQRコードをスマートフォンで読み取り、選んだ商品に対してふるさと納税の手続きを行います。ふるさと納税が完了すると、ココふるのマイページでチケットが発行されます。利用する際には施設では画面を提示するだけで済むため、複雑な手続きは不要です。
事業者にとっても読み取り端末や専用アプリの設置する必要がなく、事業者専用の管理画面からふるさと納税の実施件数や実際の利用状況をリアルタイムで確認することも可能です。
地域と人をつなぐ多様な活用事例
具体的な導入事例を教えてください
旅先で使える宿泊券やレジャー体験のほか、イベントでも活用されています。
2024年12月に開催された北海道広尾町の「まんぷくまつり」では、会場でQRコードを読み取るだけで寄付が可能となり、電子感謝券で特産品を購入できる仕組みを導入しました。特に人気だった毛ガニはすぐに完売しましたが、その他の特産品への消費も促進され、地域経済に大きく貢献しました。
来場者が約1万人を超えるイベントですが「今すぐ使えるふるさと納税」というキャッチコピーを掲げたのぼりやポップで注目を集めました。スタッフのサポートやQRコード読み取り支援、「とかち青空レディ」さんによる紹介も効果的で多くの方がその場で寄付し、特産品の購入を体験されました。
この取り組みにより、寄付行為がより身近に感じられ、地域への共感や関心の醸成にもつながりました。

北海道広尾町「まんぷくまつり」でのココふる活用の様子。その場で寄附と特産品購入が可能に
また、中富良野町では2025年2月に東京で開催された「中富良野町のなかの人と会える“多拠点ライフイベント”」でココふるを活用。このイベントは移住や二拠点生活に関心がある方々をターゲットにしており、中富良野町の地場産品も販売されました。中富良野町産のラベンダーやメロン、トウモロコシ、トマトといった名産品を使った商品に対して、ココふるを通じて寄附すると特別価格で購入できる仕組みを導入しました。
「現地消費」というコンセプトを持ちながらも、東京でのPRイベントに活用することで、まずは地域の魅力を知ってもらうきっかけを作り、将来的な訪問や移住への関心を高めるきっかけになりました。

ラベンダー製品や町内で利用できる「体験カタログギフト」のほか、地元の小学生が企業と一緒に考えてつくった「中富良野町オリジナルインク」などを販売
地域連携モデルの構築についてはいかがでしょうか
ココふるの成功には、自治体や地域事業者との緊密な連携が欠かせません。我々は自治体のふるさと納税担当だけでなく、シティプロモーション担当や広報担当、観光協会や地元事業者とも協働しています。
最初に始めた自治体では、ココふるを単なるふるさと納税のツールではなく、自治体のシティプロモーション戦略の一環として位置づけていただきました。ふるさと納税という仕組みを使いながらも、本質は地域の魅力を効果的に発信し、訪問者との継続的な関係を築くことにあります。
導入の際にはまず、地域のお店や施設がどのような形で参加できるかを丁寧に説明します。現地消費型ふるさと納税は「難しそう」というイメージを持たれがちですが、ココふるのシンプルな仕組みを理解いただくと、多くの事業者が前向きに検討してくださいます。
特に効果的なのは、地域のイベントとの連携です。お祭りや物産展など、多くの人が集まる機会にココふるを活用することで、より多くの方々に体験してもらえます。単発のイベントだけでなく、観光施設や飲食店など、年間を通じて利用できる場所を増やしていくことで、地域全体での活用が広がっていきます。
新たな魅力を発信し、関係人口の創出にも貢献
今後の「ココふる」の可能性と展開についてお聞かせください
ココふるは今後、単なるふるさと納税のツールを超えて、地域と人をつなぐプラットフォームとしての価値を高めていきたいと考えています。特に注目しているのは、地域の商品開発力の向上です。多くの自治体が「うちには何もない」とおっしゃいますが、実は地域ならではの魅力が眠っています。その土地ならではの体験やイベントを返礼品として活用できます。例えば、大自然の中で星空を見上げることも日常が都市部の人々にとっては魅力的なコンテンツになります。
私自身、親と一緒に長野県安曇野でリンゴの木のオーナーになった経験があります。そういった農業体験や収穫体験も商品化できますし、これは海外の方々も興味を持つと思います。
現地消費型ふるさと納税による関係人口創出効果についてお聞かせください
関係人口という言葉がよく使われますが、地域との接点を増やすことが重要です。ココふるは現地を訪れた人が直感的に地域と関わるきっかけを提供します。観光や出張で訪れた人がその場でふるさと納税を通じて地域に貢献できる仕組みは、関係構築の入口にもなります。
新しい特産品の開発や、地元のお祭り参加体験を返礼品とすることで、「クラウドファンディング」のような応援型のふるさと納税としても展開可能です。地元の伝統文化を守るなど継続的な地域とのかかわりは、関係人口の創出にもつながると考えています。
最後に全国の自治体へメッセージをお願いします
地域の魅力を発掘し、商品化することはふるさと納税を通じてできる非常に有効な取り組みです。観光客が直感的に「価値がある」と感じる体験やサービスを開発することで、地域全体の魅力向上にもつながります。こうした“コト消費”や“トキ消費”の発掘・商品化を、自治体や地域事業者の皆さまと一緒に進めていきたいと考えています。
私たちは、決済サービスの経験を活かし、店舗にも自治体にも負担の少ないシンプルな仕組みを心がけています。初期費用も運用コストも不要ですので、まずは気軽に試していただければと思います。
将来的には、今開発した地域の魅力をインバウンド観光客にも提供できる日が来ると思います。コロナ禍をきっかけに始めたサービスですが、今後も地域と人をつなぐお手伝いをしていきたいと考えています。
(取材日:2025年3月17日)