「D」ではなく、「X」 から始める
アナログの価値を高めるために。真岡市が庁内で育てるDX人材
栃木県真岡市は2022年3月、独自ビジョン 「ハイフレックス市役所」 を掲げた『真岡市 DX戦略計画』を策定した。デジタルを推し進めながら、アナログの価値を高める— その起点に据えたのは、ツールの導入ではなく職員の育成だった。
2023年4月には『DX人材認定制度』を創設。手挙げ制で半年間の研修をやり遂げ、「DXアドバイザー」に認定された職員は、これまでに延べ60名を超える。総務省の自治体 DX推進参考事例集にも掲載された同市の取り組みを、デジタル戦略課の池澤さより氏、安澤千尋氏に聞いた。

真岡市 総務部 デジタル戦略課
デジタル政策係 主査 池澤 さより
2019年真岡市入庁。商業振興部門、広報部門を歴任し、デジタル戦略課は3年目。庁内のDX 推進を担当し、主に窓口のフロントヤード改革に携わる。

真岡市 総務部 デジタル戦略課
デジタル政策係 主事 安澤 千尋
2022年真岡市入庁。下水道部門を経てデジタル戦略課へ異動し、現在3年目。庁内の DX推進を担当し、DX人材育成研修の運営と庁内の業務改善を担当する。
アナログを活かすためのデジタル「D」から入った失敗が起点に
DXビジョン 「ハイフレックス市役所」 についてお聞かせください。
池澤 「ハイブリッド」と「フレキシブル」を組み合わせた造語です。DXの「D」をデジタルと訳すと、どうしてもデジタル優先の考え方になってしまう。そうではなく、市民の状況にあわせて、デジタルとアナログの最適な手段を柔軟に選択・提供できる、という意味を込めました。特に福祉などの窓口業務は、人と人とのつながりや信頼関係などアナログの対応が非常に重要です。そこに最大限注力するために、デジタルに手伝ってもらう。
人材育成を起点に据えられたのはなぜでしょうか。
池澤 ツールの導入が目的化しない組織を目指すには、まず人材を育て、業務改善ができる人材を増やすことが必要ではないか̶ そう考えたのが出発点だと聞いています。
実は取り組みが始まる前に、システム導入に注力しすぎて現場が混乱してしまった経験がありました。
だからこそ、まず「この業務は何を目的としていて、どうなったら成功と言えるのか」から考える。そのために皆で学ぼう、と。私たちが重要視しているのは、DXの「X」の部分です。
手挙げ制の半年研修と 「否定的レビュー会」 という一手
研修はどのような体系で行われているのですか。
安澤 2022年度にBPRの取り組みを試行し、2023年度から本格始動しました。
二本立てで、一つは幹部職員向けの「マインドチェンジ」研修。2025年度のマインドチェンジ研修で講師が特に強く訴えていたのは「抵抗勢力にならない」ということでした。部下や若手の「こう変えたい」を止めるのではなく、背中を押して挑戦を支える側になることが、組織の中から変わるために必要だと。3年続けたことで、職員が前向きに挑戦できる環境が整ってきました。
もう一つが職員向けの「DX人材育成研修」で、業務改善をテーマにしており、半年間かけて業務の課題と向き合います。参加者は手挙げ制で階級を問わずに募集しました。
半年間はどのように進むのでしょうか。
安澤 まず業務フローを書き出して可視化すると、繰り返している作業や、別の人が同じことをしている場面が見えてきます。次に市民の方や職員にヒアリングし、実際に使う人のとを考えながら「あるべき姿」を描く、サービスデザイン思考を取り入れました。
そのうえで現状とのギャップを課題として整理し、打ち手をワークショップで話し合い、最後は幹部職員を含む庁内報告会で締めます。
2025年度から「 否定的 レビュー会」を設けられたそうですね。
安澤 庁内報告会の前に職員の直属の上司である課長に集まっていただき、あえて否定的にレビューしてもらい、指摘を踏まえて提案内容をブラッシュアップするものです。

否定的レビュー会では、プロジェクト参加職員が各プランに対する否定的な評価を受けることで、プロジェクト序盤からリスクや盲点が発見できる。
庁内で育て、外の目で気づく認定制度とDXフェロー
やり遂げた職員は 「DXアドバイザー 」 として認定されるのですね。
池澤 庁内報告会まで実施できた職員を「DXアドバイザー」として認定し、青いストラップを身につけてもらっています。
外部人材はどのように活用されているのでしょうか。
池澤 アドバイザーは外部から招くのではなく、組織の中で育てていこう、というところから始まっています。
一方で、専門的知見をいただく「DXフェロー」の枠組みがあり、外部の専門人材を委嘱しています。庁内の職員だけでは、普段の業務を当たり前に思ってスルーしてしまいがちです。
外の人が見るからこそ分かることを見出してくれる役割に期待しています。
手挙げ制で職員が集まる秘訣はどこにあるのでしょうか。
安澤 研修が始まる前に、ロビー活動をしていたのだと思います。各課に赴いて「何か困りごとはある?」と聞いたり、別の業務の場面で「ここで苦労していたよね」と一声かけたり。それが職員自身の気づきになって、手を挙げてくれていたのかなと。
職員にどのような変化が見えていますか。
池澤 私が関わったグループに、それまで自分の意見を主張することが少なかった会計年度任用職員の方がいました。研修を終えた後に変化が起きて。他部署の上司にも改善点を相談し、そこからデジタル部門へと話が上がって、必要なソリューションを提供できた事例もありました。
最後に、今後目指す姿と、他の自治体へのメッセージをお願いします。
池澤 まだまだ足りないのは、部署を超えた課題解決のための取り組みです。認定者の活躍を、事務局でも把握しきれていない部分があります。
得意分野や強みを見える化して、部署を超えた困りごととマッチングできるようにしたい。そして今後は、自治体の枠を超えた協力体制への関心も高まってくるはずです。
デジタル庁が運営する「デジタル改革共創プラットフォーム」なども活用し、自治体間で自然に相談し合える関係を築いていきたいですね。
安澤 これまでの3年間は業務改善をテーマにしてきましたが、今年度からの3年間はデータ利活用に重きを置いた研修にシフトします。これからはデータを活用して課題を捉え、施策立案や業務改善につなげられる人材を育てていきたいです。
(取材日:2026年 7月27日)





