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事業者インタビュー

転出者と「ふるさと」をつなぐ
地域ファンメディア「FAVTOWN」が創る新たな関係性

進学・就職で地元を離れる若者と地域のつながりを維持する新たなアプローチとして、シナジーマーケティング株式会社の「FAVTOWN(ファボタウン)」が注目されている。

「ふるさと便」(地域の特産品や日用品を詰め合わせた新生活応援ギフト)の送付や就職支援など様々な形で地元企業・自治体と連携し、出身者を「ふるさとのファン」へと育てる取り組みは、2024年度グッドデザイン賞も受賞。CRMの知見を地域創生に活かす新たな公民共創モデルについて、事業を手掛けた平手和徳氏に聞いた。

 

シナジーマーケティング株式会社 メディア事業部 部長 平手 和徳

シナジーマーケティング株式会社 メディア事業部 部長
平手 和徳

兵庫県出身。事業構想修士(MPD)。2010年シナジーマーケティング株式会社へ入社後、企業のCRM導入やデータ活用支援に多数携わり、Yahoo! JAPANとの新規事業開発も担当。

新規事業開発責任者・メディア事業部長を兼任しながら、2023年より「FAVTOWN」の立ち上げと事業推進を担う。地域・企業・出身者を結ぶ取り組みに力を注いでいる。

 

 

地方の若者流出という課題にCRMの知見で挑む

 

「FAVTOWN」が誕生した経緯を教えてください

「FAVTOWN」は、コロナ禍で帰省自粛が広がる中、地元自治体が出身者に特産品を送る取り組みをヒントに誕生しました。ある地域のワークショップで、進学により約8割の若者が地元を離れてしまうという課題を知ったことも大きなきっかけです。

私たちはこれまで20年以上にわたり、企業のCRM(顧客管理)やスポーツチームのファンづくりを支援してきました。その経験を活かし、地元を離れて暮らす人と地域を再びつなぐ仕組みをつくれないかと考えたのです。進学や就職でふるさとを離れた若者との接点が途絶え、関係が希薄になる。そのような現状に対して、継続的につながれる仕組みを築きたいと考えました。

 

「FAVTOWN」ならではの価値とは?

最大の特徴は、単なる情報発信にとどまらず、会員に「ふるさとへのアクション」を促す設計にあります。「情報は発信しているのに反応が薄い」「一律配信では関心層に届かない」「支援物資を送っても関係が続かない」といった自治体の課題を、“行動設計”の視点から解決しています。

例えば「ふるさと便」は、特産品を届けるだけでなく、企業広告ではない応援コメントという形で地元企業を紹介。受け取った人が企業に関心を持ち、自然に“応援と感謝”の関係性が生まれます。そこから「商品購入」「就職活動」「ふるさと納税」などのアクションへとつなげています。

実際、新社会人向けに送ったふるさと便では、87%が「ふるさと納税を検討したい」と回答し、行動変容が見られました。

また、CRM技術を活用し、会員アンケートをもとに属性や関心に応じたセグメントを設計。すべての人に同じ情報を一律で届けるのではなく、タイミングや内容を最適化しながら、無理のない関係構築を重視しています。

 

 

地域と若者をつなぐ多様な取り組み事例

 

和歌山市での取り組みについて、具体的な成果や反響を教えてください

和歌山市では2023年2月にサービスを開始し、現在は会員数が4,500名を超えています。会員の約7割が市外在住の関係人口で、特に10〜20代の若年層の登録が多く、自治体が独自に運営するSNSやLINE公式アカウントでは届きづらい層へのアプローチに成功しています。

さらに、会員登録時やアンケートを通じて得られるデータにより、転出者の居住地やZ世代の関心・行動傾向を可視化できる点も大きな特長です。これにより、感覚や経験則に頼らず、世代別・地域別に的確な施策の設計や検証が可能になっています。

ウェブサイトやメルマガ、LINEを通じた情報発信では、3〜4割の方が開封するなどアクティブ率の高さも際立っています。特に「ふるさと便」の反響は大きく、大学生からは「久しぶりに地元の温かさを感じた」「離れていても見守られている気がした」といった声も寄せられています。地元メディアでの掲載もあり、市民の方々からの評価も高まっています。

地元の企業への就職支援にも力を入れており、大学3年生のアンケートでは57%が地元就職を検討している一方、企業との接点が少ないという課題が明らかに。そこで、若手社員と学生がざっくばらんに会話できるイベントを開催し、「地元でも働いてみたい」という前向きな声が多く聞かれました。

 

和歌山市における会員向けサービスの取り組み事例

 

 

愛媛県(松野町、鬼北町、愛南町)での活用事例と成果を教えてください

愛媛県では、松野町・鬼北町・愛南町の3町が連携し、2024年よりサービスを開始しました。いずれも和歌山市ほどの人口規模ではなく、単独では十分な会員数を確保することが難しい状況でしたが、愛媛県が推進する「トライアングルエヒメ2.0」プロジェクトの支援を受け、広域での展開を実現しています。

現在、3町あわせての会員登録数は900名弱、延べ会員数は1,700名を超えており、広域での連携によるスケールメリットが表れています。特徴的なのは一人の会員が複数の自治体に登録するケースが多い点です。たとえば、「松野町出身だが、鬼北町の高校に通っていた」といったように、生活圏がまたがっていることで複数の地域に愛着を持つ人が多く、3町間連携の相乗効果を生んでいます。

 

 

地域と転出者をつなぐ持続可能な関係構築

 

「FAVTOWN」の認知を広げるために実施している取り組みは?

「FAVTOWN」では、高校卒業のタイミングで、学校を通じて会員登録を促しています。和歌山市では、県外に進学する卒業生が年間1,000〜1,500名程度いると言われており、そのうち約3〜4割が登録している状況で、徐々に登録の習慣が根付きつつあります。

さらに、行政のLINE公式アカウントや会報誌、地域メディアでの発信に加え、協賛企業内での告知、地域に関わるインフルエンサーの協力など、さまざまなルートを通じて認知拡大にも取り組んでいます。
こうした発信をきっかけに、保護者が県外に出たお子さんに紹介するケースも増えており、なかには「直接“戻ってきてほしい”とは言いづらいから紹介した」という声もありました。

 

地域と人をつなぐ、FAVTOWNのサービスイメージ

 

 

公民連携による持続可能なエコシステム

 

自治体や地元企業との具体的な協力体制について教えてください

「FAVTOWN」の運営にあたっては、自治体との連携協定を結び、委託契約と連携協定の両面から取り組んでいます。単なるシステム提供にとどまらず、地域のプラットフォームを共に推進していく関係性を築いているのが特徴です。
地元の企業に関しては、自治体の職員の方にご紹介いただいた企業を中心に、一社一社に丁寧にご説明しながらご協力をお願いしています。また、地元の協力者からのご紹介も活用しながら協業の輪を広げてきた結果、現在では100社近い企業が応援パートナーとして本取り組みにご賛同・ご協賛してくださっています。

その特徴は、単なる一過性の寄付や社会貢献で終わらない点にあります。自社のブランディングや認知向上にもつながるような設計をしているため、企業にとっても中長期的な価値を感じていただけます。

 

今後の「FAVTOWN」の可能性と新たな展開について教えてください

「FAVTOWN」の今後の展開として、3つの方向性を考えています。一つ目は、現在の一方向的な情報発信から、双方向の交流型メディアへと進化させることです。今後は、会員の皆さまが主体となって地元に関する情報を発信したり、イベントの紹介やクラウドファンディングの募集などが、できるような場にしていきたいと考えています。会員同士のつながりや、会員からの地域への発信を促すことで多層的かつ自発的な地域とのつながりが生まれていくことを目指しています。

二つ目は、Uターン就職などの具体的なアクションにつながるサービスの強化です。和歌山市では市の雇用促進部門と連携し、就職支援の取り組みを始めています。転職を考えている会員が「FAVTOWN」上で意思表示すると、地元の企業からスカウトが届くような仕組みも検討中です。潜在的なUターン希望者と地元の企業をマッチングできるプラットフォームとしての機能を高めていきます。

三つ目は、地域パートナーシップの拡大です。現在は主に自治体と私たちが中心となって運営していますが、今後は地元の企業や団体との協業を深め、地域に根差した運営体制を構築したいと考えています。これらの取り組みを通じて、「FAVTOWN」を単なるコミュニケーションツールではなく、地域と人をつなぐプラットフォームへと発展させていきたいと考えています。

 

自治体さまへのメッセージをお願いします

地域を離れる転出者は、決して「失われた存在」ではありません。むしろ、将来の地域を支える原動力となる可能性を秘めた存在だと私たちは考えています。

そうした転出者とのつながりを生むサービスは、時間の経過とともに信頼と関与が積み重なっていく、“複利型”の関係人口施策です。だからこそ、早く着手するほど、地域にとっての価値は大きく広がっていきます。

私たちはこれまで、メールマーケティングやCRMといった、今や企業にとって“当たり前”となった仕組みを数多く手がけてきました。こうした知見や経験を地域に活かし、関係人口を地域の力に変える“新たな当たり前”を自治体の皆さまと共に創っていきたいと考えています。

 

(取材日:2025年4月4日)

 

「地元が好き」でつながる ふるさとファンメディア 公式サイトはこちら

 

シナジーマーケティング株式会社

https://corp.synergy-marketing.co.jp/

〒530-0003 大阪府大阪市北区堂島1-6-20 堂島アバンザ21F

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