まちの掲示板

事業者インタビュー

人手不足の切り札は「地域の中」にいる―
自治体公式スポットワークの可能性

「ハローワークに求人を出しても応募がこない」「繁忙期だけ人手が欲しいが、都合よく人材を採用はできない」。

多くの事業者、特に地方の事業者が抱える「人手不足」という深刻な課題に対し、株式会社Matchbox Technologiesは、自治体が主体となる公式スポットワークサービス「自治体マッチボックス」を提案する。これは地域に眠る労働力を掘り起こし地域内で循環させる「ギグワーク版ハローワーク」だ。地域内で潜在活力を最大化させる「セルフソーシング®」と、将来的に自治体負担がゼロになる「自走モデル」を強みに、新潟県佐渡市などで既に大きな成果を上げている。官民連携で地域の未来を拓く本サービスについて、担当の種村氏に聞いた。

 

 

株式会社Matchbox Technologies matchbox事業本部 自治体グループ
自治体連携責任者 種村 優介

2015年に新潟市役所入庁。総務課、区役所産業振興課、政策企画部に所属し地域企業支援、広域連携、国家要望、公民連携などの業務に従事。2024年7月より株式会社Matchbox Technologiesに入社。全国の自治体から課題のヒアリング及び提案事業の設計を担当。

 

 

地域の「眠れる労働力」を掘り起こす。なぜ「自治体主導」なのか

 

「自治体マッチボックス」を開発・提供するに至った背景は?

弊社は、ローソンのフランチャイズ事業で祖業した会社ですが、現場の人手不足を解決するために企業向けのデジタルサービスとして「マッチボックス」というシステムを開発しました。企業や個人事業主が独自の人材データベースを構築・活用し、アウトソースに頼らずに人材を確保する仕組みで、当社では「セルフソーシング」と名付けています。当時、自治体向けのシステム提供は全く考えていなかったのですが、新潟県湯沢町様から「コロナ禍で仕事がなく困っている住民のために何とかしたい」というご相談をいただいたのがきっかけで自治体との連携事業が始まりました。

 

湯沢町の課題解決に取り組む中で見えてきたのは、子育て中の女性や高齢者など、フルタイムでは働けないものの「短時間なら働きたい」というスキルを持った方々が地域には大勢いる、ということでした。私たちはこの層を「眠れる労働力(地域の潜在活力)」と呼んでいます。しかし、彼女たちが飲食店の皿洗いのような仕事をしたいかというと、決してそうではありません。多くの方が、自身のスキルや経験を活かしたいと望んでいます。

そこで重要になるのが、プラットフォームへの「安心感と信頼感」です。

 

スポットワークは近年急激に普及した新しい働き方ですが、「自治体マッチボックス」は、地域に関係する様々な方々が利用されますので、利用する事業者を労務リスクから守り、コンプライアンス遵守を徹底していると同時に、労使間の関係性を対等に保つシステム設計を重視しています。

 

地方の事業者は、民間のデジタルサービスには不慣れで敬遠しがちです。「デジタル」と聞くだけで、「自分には無理だ」と挑戦する前から諦めてしまう事業者も少なくないと思います。また、求職者においても特に40代、50代の女性や高齢者の方々は、一般的な民間アプリに対して少し慎重になる傾向があります。しかし、「自治体公式」というお墨付きがあることで、事業者・求職者が安心して登録・利用していただけるのです。

 

実際に、私たちのサービスの登録者データを見ると、他の民間サービスが10代~30代で6割以上を占めるのに対し、「自治体マッチボックス」では40代、50代が全体の約44%を占め、その多くが女性という特徴的な構成になっています。自治体が主体となることで、これまで労働市場に出てきづらかった層にアプローチでき、本当の意味での労働力の掘り起こしが可能になると確信しています。

 

 

 

人材と「繋がり続ける」セルフソーシング。スポットワークとの決定的違い

 

「セルフソーシング」について、従来のスポットワークとの違いは?

「セルフソーシング」とは、その地域や企業に一度でも関わったことのある人材をデータベース化し、継続的な関係性を築くことで、必要な時に即戦力として活躍してもらう、という考え方です。これは、毎回新しい人を外部から探してくる一般的なスポットワークとは全く異なるアプローチです。

 

他の多くのスポットワークアプリでは、応募と同時にマッチングが成立するため、企業側が働き手を選考することができません。そのため、「どんな人が来るかわからない、毎回教育からスタートしないといけない」という不安が常に付きまといます。しかし、「マッチボックス/セルフソーシング」では、企業が応募者のプロフィールや経験を見て採用・不採用を決めることができますし、継続的な関係性を築いた即戦力を募ることができます。これによりミスマッチを防ぎ、安心して専門的な業務も任せることが可能になります。

 

この仕組みがあるからこそ、働き手は単なる「労働力」ではなく、企業の「チームの一員」という意識が醸成され、事業者も戦力として採用した人材を大切にします。実際に、ほとんどの方が同じ職場で繰り返し勤務しており、スポットワークをきっかけに双方の相性を確認し、最終的に長期雇用へ繋がるケースも珍しくありません。これは、その場限りの関係で終わってしまう従来のサービスにはない、大きなメリットだと考えています。

 

 

 

人口5万人の離島・佐渡市での成果。自治体負担ゼロの「自走モデル」

 

新潟県佐渡市での取り組みと、自治体の費用負担がなくなる「自走モデル」について教えてください。

人口約5万人の佐渡市は、観光が主要産業ですが、離島という地理的特性から外部から働き手を呼ぶことは難易度が高く、特に繁忙期の人手不足が深刻な課題でした。そこで、地域公式サービス完成後は、市役所の方々と一緒に地域の事業者を訪問するなど、デジタルサービスの普及に努めました。

 

結果は私たちの想像以上でした。運用開始から約2年が経ち、今では「なくてはならない地域の就業インフラになった」と市の方におっしゃっていただいています。直近1年間(2024年10月~2025年9月)の実績では、年間約7,000件のマッチングが成立しました。取り組みは観光業だけでなく、人材不足に悩む医療現場にも広がり、地域に眠る看護師や助産師、歯科衛生士など専門職の掘り起こしも活発化しています。さらに、有資格者でなくても対応できる業務を専門職が担っているケースも多く、その業務の一部をスポット人材に任せることで、業務全体の効率化が進むという利点もあります。

また、移住希望者が島での仕事を体験する「お試し就労」のツールとしても活用されており、移住定住施策にも貢献しています。

 

そして、この事業の最も重要な点が「自走モデル」です。最初の3年間は、導入・普及のための費用を自治体に財政支援いただきますが、地域にサービスが浸透し、企業間のマッチングが活発化することで、企業の利用手数料だけで運営費用を賄えるようになります。実際に佐渡市では来年度に事業4期目を迎えますが、市の財政負担ゼロの見通しが立っています。これは、一過性の補助金事業で終わらない、真に持続可能な官民連携事業の形だと自負しています。

 

 

労務管理の自動化から政策立案まで地域DXを力強く推進

 

本サービスは、自治体のDX推進にも貢献するとのことですが。

「自治体マッチボックス」は、二つの側面で地域のDXを推進します。一つは、地域企業のDX支援です。地方の中小企業にとって、勤怠管理や給与計算、税務処理といった労務管理は大きな負担です。本サービスは、雇用契約書の自動発行から給与の立替払い、源泉徴収、各種法定帳票の作成まで、煩雑な労務処理を全てシステム上で完結できます。これにより、デジタル化に不慣れな事業者様でも、安心してスポットワークを導入し、経営の効率化を図ることができます。

 

もう一つは、自治体におけるEBPM(証拠に基づく政策立案)の推進です。自治体の担当者様には専用の分析ダッシュボードを提供します。これにより、どの業種で人手が不足しているのか、どの年代の住民が活躍しているのか、どの地域から働きに来ているのかといった労働市場の動向をリアルタイムで、かつ詳細にモニタリングすることができます。このデータを活用することで、より効果的な産業振興策や移住定住施策の立案に繋げることが可能です。

 

人手不足に悩む自治体職員の方々へメッセージをお願いします。

日本の人口が減少し続ける中で、地域を持続させていくためには、外国人材の活用なども議論されていますが、まだできることがあると私たちは考えています。それは、自分たちの地域に眠っている、働きたくても働けなかった方々が活躍できる環境を整え、就業の選択肢を増やすことです。地域の潜在活力を最大限に活かすことができれば、地域はもっと元気になれるはずです。

 

新しい事業を始めることに対して、ご不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、導入後の事業者への説明や求職者からの問い合わせ対応をはじめ、きめ細かいサポートなど日々の運営業務は我々が事務局として全面的に行いますので、自治体様に専任の担当者を置いていただく必要はありません。走り出すまでの事業設計や戦略策定が少し大変ですが、官と民の力を合わせれば必ず課題解決の道筋が見えてきますし、未来に残る「地域の就業インフラ」を築くことができると考えています。私たちは、このサービスを通じて、持続可能で誰もが輝くことのできる地域社会を皆様と一緒に作っていきたいと心から願っています。

 

(取材日:2025年10月8日)

株式会社 Matchbox Technologies matchbox事業本部 自治体グループ

〒950-0945 新潟県新潟市中央区女池上山3-14-10

https://matchbox.jp/business/

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