「地域課題解決のためのDXを進めたいが財源がない」「補助金頼みの実証事業で終わってしまう」──多くの自治体が直面するこの課題に対し、BIPROGYが提示するのは「地域自らが稼ぐ力を作る」というアプローチだ。その核となるのが、官民が一体となって事業を推進する「地域公社」である。
同社は、ふるさと納税額99億円超を達成し、地域活性化の成功事例として知られる茨城県境町の「境町モデル」に着目。そのノウハウを体系化する全国地域ビジネス協会と連携して「地域公社アドバイザリー支援」を開始した。地域公社設立から事業成長、DXまで一貫して伴走し、持続可能な地域社会の実現を目指す。

BIPROGY株式会社 事業開発本部事業推進二部
事業開発プロジェクト 竹内 良輔
2003年日本ユニシス株式会社(現:BIPROGY株式会社)入社。エネルギー、小売、交通領域等で新規事業開発に従事。近年は、地域活性化に資するDX事業に専念し、長野・新潟を中心に全国各地域で活動中。一般社団法人全国地域ビジネス協会、地域ビジネスプランナー認定。
持続可能な地域社会の実現には「稼ぐ力」が不可欠
BIPROGYが地域創生領域に取り組む背景を教えてください。
私たちは1958年の設立以来、旧日本ユニシスとして、主に金融機関や公共(交通・エネルギー)、製造・流通といった領域でシステム開発を担ってきたシステムインテグレーター(SIer)です。長年、BtoBで企業ごとのDXを支援してきましたが、市場も成熟し、従来のSI事業だけではない新しいチャレンジが必要でした。そこで、2018年から地方創生に取り組み始めたのです。
当初は、我々の強みであるデジタル技術で地域の課題解決に貢献しようと、様々なアプローチを試みました。複数の自治体と連携協定を結び、官民共創でDXを進める活動なども行いました。
しかし、そこで直面したのが「財源の壁」です。社会課題の解決に向けた事業を進めたくても、先立つものがなければ難しい。補助金を使った実証事業はできても、なかなか持続可能な事業に繋がっていかないのです。これは多くの地域で共通する課題でした。
その課題をどう解決しようと考えたのですか。
地域で自律的に稼ぐ力をつけ財源を作り、それを課題解決に再投資する。この両輪が回る事業スキームが必要だと痛感しました。私たちはこれを「地域エコシステム」と呼んでいます。「地域が稼ぐ事業」で経済的価値を高め、それを原資に「地域の課題解決型事業」で社会的価値を高めるという考え方です。この仕組みを模索していた矢先に出会ったのが、茨城県境町でした。
官民の強みを掛け合わせる「境町モデル」
「境町モデル」のどのような点に可能性を感じたのでしょうか。
境町では、町と民間が50%ずつ出資した「株式会社さかいまちづくり公社」が主体となり、目覚ましい成果を上げています。ふるさと納税と道の駅事業を中核に据え、商品の企画・開発から製造、販売までを一気通貫で行い、収益を上げています。2014年に約3,200万円だったふるさと納税寄付額は、2023年には約99億円にまで成長しました。
素晴らしいのは、稼ぐだけでなく、その収益を新たな地域産業の創出(干し芋産業など)や、子育て支援といったまちづくりに再投資している点です。
そして、この成功を支えているのが、徹底した「官民連携」です。自治体の戦略や意思と、民間側の「収益を作る」「産業を作る」というモチベーションが本当に一体化している。民間の市場成長と、公共の制度や補助金活用をうまく連携させながら地域を成長させていく。これこそが地域公社の強みだと感じました。

子どもの医療費・3~5歳の保育料無料など、手厚い子育て支援で「住みたい町ランキング」で1位に
BIPROGYはどのように連携を始めたのですか。
境町も、自分たちの成功だけで終わらせず全国に展開したいという思いから、「一般社団法人全国地域ビジネス協会」を設立し、地域のエキスパート人材の育成を行う「境まちづくり大学院」を立ち上げていました。私たちもまず学ぼうと、第一期生として大学院に通い、ノウハウを吸収しました。
そして2025年5月、全国地域ビジネス協会とBIPROGYが協業し、ノウハウを体系化した「地域公社アドバイザリー支援」の提供を開始しました。私たちが水先案内人となり、全国の自治体に伴走しています。2030年までに100地域との協働を目指し活動しています。また、必ずしも地域公社を新設する必要はなく、既存団体の役割や体制を見直すことで地域公社同様の機能を果たすことも可能と考えています。
最大の壁「人材」もBIPROGYのネットワークで発掘
境町モデルは素晴らしいですが、「うちの町では難しい」と考える自治体も多いのではないでしょうか。
おっしゃる通りです。視察に来られても、「これは境町だからできたんだ」と諦めてしまう自治体様がいらっしゃるのも事実です。
その背景にある最大の課題は、「誰がやるのか」、つまり人材です。境町の首長や公社社長のような、強いリーダーシップとバイタリティを持つコアメンバーが、自分の地域には見当たらないと感じてしまうのです。
その「人材」の壁をどう乗り越えるのでしょうか。
思いを持った方は、どの地域にも必ずいると私は信じています。ただ、役場の方が見える範囲だけで探して諦めてしまっているケースも多い。
BIPROGYは全国に顧客ネットワークを持っています。例えば、金融機関のお客様です。金融機関は、役場の方以上に地元の民間企業をよく見ています。そうしたネットワークを使いながら、公社を担っていただけそうなメンバーを探すお手伝いをすることも可能だと考えています。

町民の足となる無料の自動運転バスも運行
データ分析と人材育成で「稼ぐ力」を内製化する
具体的な支援内容について教えてください。
『地域公社設立支援』『地域公社成長支援』『ふるさと納税成長支援』の3つのメニューを提供しています。立ち上げから成長までを一貫して伴走し支援を行います。たとえば設立段階では、環境調査や体制づくりをはじめ、様々な交付金の取得支援なども行います。また、理念やコンセプトの策定、さらに経営戦略や事業計画、アクションプランまでを一緒に描いていきます。特に注力しているのが、地域が「稼ぐ力」を内製化するための支援です。
「内製化」とはどういうことでしょうか。
ふるさと納税で成果を上げている自治体でも、商品開発などのマーケティング機能を外部の中間事業者に任せきりになっているケースが少なくありません。それでは地域にノウハウも人材も残りません。
私たちは、地域公社自らが主体となってマーケティングを行い、データを分析し、売れる商品を開発することを目指します。
多くの自治体では、寄附総額の把握に留まっていますが、成長のためには、返礼品の強み・弱みや寄附者の動向を詳細に把握する必要があります。私たちはSIerとしての知見を活かし、BIツールを活用してデータを可視化・分析する支援も行っています。これにより、データに基づいた迅速な意思決定が可能になります。
重要なのは、このプロセスを通じて、地域でマーケティングができる人材を育てていくことです。仮に将来ふるさと納税という制度がなくなったとしても、そのスキルは他の事業に必ず生きてきます。

茨城県境町での成功事例を基に支援メニューの体系化した「地域エコシステム」
ふるさと納税は入口。地域の可能性を共に探す
ふるさと納税以外の事業展開も可能でしょうか。
もちろんです。ふるさと納税は市場規模が大きく取り組みやすいですが、あくまで一つの手段です。地域の特性に応じて、稼げる手段は他にもあります。
例えば、ある地域では、交通利便性を高めるMaaS(オンデマンドバスなど)の取り組みが先行していました。しかし、その運営財源を確保する必要があり、その手段として地域公社による「稼ぐ事業」を検討し始めたという経緯があります。この地域では、ふるさと納税以上に観光分野でのポテンシャルがあります。
このように、まずは地域の課題や可能性を議論し、その地域に最適な事業を組み立てていくことが重要です。
最後に、導入を検討している自治体へのメッセージをお願いします。
「境町モデル」というと、少し壮大で難しく聞こえるかもしれません。しかし、私たちはこのモデルをベースに、第二、第三の成功地域となるような、新しい地域のモデルを一緒に作っていきたいと強く思っています。
まずは気軽にご相談いただき、その地域の可能性を評価し、交付金申請なども含めて、プロジェクトを立ち上げるところまでご一緒できればと思っています。
地域自らが稼ぐ力をつけ、持続可能な未来を創る。そのための伴走者として、ぜひ私たちを活用してください。
(取材日:2025年9月18日)
特別インタビュー
「境町モデル」成功の要諦は、官民の「責任」と「決断力」

株式会社さかいまちづくり公社 代表取締役
一般社団法人全国地域ビジネス協会 代表理事 野口 富太郎
150年続く老舗茶舗「野口徳太郎商店」代表。地域貢献のため「さかいまちづくり公社」を創業し社長に就任。「道の駅さかい」運営や観光事業、特産品開発も推進。ふるさと納税の改革を推進し官民連携で稼ぐ力を循環させ、地域公社モデルで持続可能な活性化をけん引している。
50:50の出資比率が本気を生む
「境町モデル」は、最初から全体像を描いていたわけではありません。「住民のため」に点でやっていたことが、12年の積み重ねで面に広がり、結び付いてきた結果です。
私たちの最大の特徴は、自治体と民間が50%ずつ出資する地域公社を設立したことです。よくある地域商社では自治体の出資が10~20%程度ですが、それでは自治体の本気度・責任が上がりません。「自治体も責任を持つ」「民間も責任を取る」。だからこそ50:50にこだわりました。
ふるさと納税を起点とした「循環」スキーム
この体制により、自治体と真正面から連携し、地方創生交付金を積極的に活用できています。交付金を活用する場合、通常は町の持ち出し分が発生しますが、境町ではそれを一般財源ではなく「ふるさと納税」から拠出します。
そして、整備した施設(うなぎ工場など)で地域公社が事業を行い、家賃等で町へ還元していく。さらに事業がふるさと納税の寄付額増に直結すれば、税・家賃・地元経済へ好循環が生まれます。この「地域内で循環が回る設計」が重要です。

さかいまちづくり公社が運営する「みちの駅さかい」にあるレストラン。地元食材を使った料理を提供
「資源がない」は言い訳。鍵は決断力とDX
成功要因を一つ挙げるなら「首長の決断力」です。うちの首長は意思決定が早く、「すぐやる」。地方創生交付金も年間7~8本は採択を取っています。
よく「うちは資源がない」「人材がいない」と言われますが、ふるさと納税は首長が裁量を持てる自由度の高い財源であり、条件はどの自治体も同じです。人材も眠っているだけ。結局は「やる気と決断力」の問題で止まっていることが多いのです。また、公共領域は非効率な部分が多く、DXによる効率化の余地が非常に大きい。
BIPROGYさんのようなパートナーと組む「改革×DX」が不可欠です。実際、境町の一般会計は12年前の約70億円から300億円超に拡大しましたが、職員数は約230名で変わっていません。やり方次第で可能性は十分にあります。
「境町は特別」ではありません。コツコツ積み上げただけです。見ただけ・聞いただけでは分かりません。まず現地に来て、境町がどう変わったかを見れば、「自分たちにもできる」と思えるはずです。まずは一歩を踏み出すこと。ぜひ境町に遊びに来てください。
(取材日:2025年9月22日)





