深刻化する職員不足、 2040年問題、そして働き方改革— 。自治体の人材課題が多様化するなか、労務・勤怠・給与から人事評価、タレントマネジメントまでを一つのデータベースで支える「One人事[Public]」が、公的機関で導入を広げている。
人事評価のシステム化は、担当者の事務負担を軽くするだけの話ではない。積み上げてきた記録を 「活かせる」 形に変えたとき、人材配置や育成のあり方そのものが変わりはじめる。取締役執行役員副社長の松井章氏と、自治体の現場を担う坪本雅人氏に話を聞いた。

One人事株式会社 取締役 執行役員副社長/HRTech事業本部長(兼)
PublicHR事業部長(兼)DX事業本部長(兼)仙台支社長 松井 章(左)
京都大学工学部情報工学科を卒業後、シーアイエス株式会社とコムチュア株式会社にて要職を歴任。両社ともJASDAQ上場を達成するなど、営業部門のリーダーとして活躍。2013年に株式会社日進(現One人事株式会社)に参画、現在は同社の取締役副社長を務める。One人事株式会社は、HRTech SaaSや公共機関向けの人事DXソリューションを提供する急成長企業であり、その成長を牽引する重要な役割を担う。
One人事株式会社 HRTech事業本部
PublicHR事業部 営業統括部 部長 坪本 雅人(右)
2025年入社。国・独立行政法人・国立大学等で実績を重ねてきた同社において、自治体向け領域の展開を担う。
「定着」 と 「成長」─ 自治体人事、二つの課題
自治体の人事部門が直面している課題を、どのようにご覧になっていますか。
松井 自治体に限らず民間企業も同じですが、少子高齢化と人材の流出が進むなかで、いかに職員に定着してもらうか。これが一つ目の大きなテーマです。働き方改革の波を経て、近年は人的資本という考え方も広がってきました。要は、職員の満足度をどう高めるかです。
もう一つは、少ない人数で業務量が増えていくなかで、それをどうこなしていくか。単に耐えるのではなく、リスキリングを含めて、職員が成長しながらパフォーマンスを上げていく必要があります。AIも活用しながら、単純な作業はできるだけ仕組みに任せ、本来やるべき仕事に時間を振り向けるーそれが大きな流れとしてのDXです。
「定着」と「成長」。この二つが、いま人事に突きつけられている課題だと考えています。
日本のGDPは総額では世界の上位にありますが、一人当たりでは順位を大きく落としています。自動化が進む工場現場の生産性は高い。数字を押し下げているのは、我々ホワイトカラーです。人事の仕事は法改正のたびに対応が必要で、働き方も多様化している。だからこそ、人が本来の仕事に向かえる環境づくりが問われています。
給与も、勤怠も、評価も ─「一気通貫」 の意味
労務から人材マネジメントまで、一つの仕組みにこだわる理由は。
松井 給与や勤怠は、どちらかといえば効率化を狙う領域です。一方、タレントマネジメントは、育成と正しい評価の領域。この二つは、つながっていなければ意味がありません。
とくに自治体には、2~3年で必ず異動があるという特徴があります。異動の検討や準備の作業だけでも、人事側の負担は相当なものです。給与は給与、勤怠は勤怠と、バラバラのシステムで持っていては、そこがつながらない。入庁してから退職するまで、日々の働き方も、評価も、一つの仕組みとして捉えないと、公正な評価も適材適所も実現できません。私たちは、そこをワンストップでできる仕組みを目指しています。
また、バラバラのものを組み合わせるより、一つの土台から始めたほうが親和性は高い。長く使っていただくほどデータも貯まっていきます。それは私たちにとっても、お客様にとっても価値になります。
現場で聞く、「Excel運用」の限界
自治体の現場では、どのような課題を聞かれますか。
坪本 人事評価をExcelで運用されている自治体は、いまも少なくありません。評価シートの配布・回収や集計に膨大な工数がかかり、本来やりたい業務に時間を割けないまま評価期間が終わってしまうーそうした声を伺います。
異動の検討でも、過去の記録がファイルのあちこちに散らばって追いきれず、最終的には上司や人事担当者の「勘」に頼らざるを得ない。情報がシステムに一元化されることで、さまざまな角度から見比べながら適材適所を考える土台ができてくると考えています。
20年分の記録が、はじめて「読める」 ものになる
記録が残り、たどれることには、どのような意味があるのでしょうか。
松井 自治体は、記録として残さなければならない世界です。私たちは履歴管理の機能を持っているので、異動があっても過去からすべてたどれる。これまで「いま現在」しか見ていなかったものが、時系列で見えるようになります。
Excelの時代は、ファイルが大量に散らばって、20年分をまとめて見るなど現実的ではありませんでした。
しかし、人にまつわることですから、その人の歴史を保持して、いろいろな角度から見られることが必要なんです。
たとえば、 10の部署を経験してきた職員がいたとして。
松井 子育て支援にいて、収納にいて、いまは人事にいる。当時の上司は、おぼろげに覚えているだけです。でも、その人がどう歩んできたかを分かったうえで会話ができれば、まったく違います。自分のことを一番よく知ってくれている、ちゃんと見てくれているーそう感じられることは、働き続けるモチベーションにも、離職の防止にもつながります。
人の軸と、組織の軸 ─ 評価を立体的に捉える
単に、人ごとのデータが見られるということではないのですね。
松井 たとえば2,000人規模の市役所で、人事評価を人別・時系列に並べるとします。「10年前のこの時期、この職員の評価が低い。ではその時の組織はどうだったのか」と考えても、通常は組織を軸に振り返ることができません。
私たちの仕組みでは、その時点の組織が見えます。当時どういう体制で、誰が評価者だったのか。「この評価者は、全員に辛い点数をつけているな」と分かれば、それはバイアスですから、「ここは除いて見よう」という判断ができる。人を軸にも、組織を軸にも見られる。
マトリックスで、立体的に把握できるということです。これを手作業でやろうとすれば、20年分ともなればほぼ不可能です。つまり、仕事量が減るという話にとどまらず、業務の質が上がるんです。
時間をかけて評価をしても、その評価が後から本当に活かされているかというと、実はそれほど見られていない。せっかく積み上げてきたものが活かされないのは、もったいない話です。それをきちんと活かせるようにすることが、質の向上につながります。

入庁から退職までを一つの仕組みで捉える。労務・勤怠・給与と人材マネジメントが同じ土台でつながる。
AIは人に代わらず、人の判断を支える
AIが浸透すれば、人事システムは不要になるのでは、という声もあります。
松井 そうは思いません。自治体ごとに制度や運用が異なるため、AIに任せる範囲は慎重に見極める必要があります。
生成AIには、問い合わせ対応や情報検索、文書作成の支援など、大きな可能性があります。ただし行政分野では、正確性や説明責任、情報セキュリティが極めて重要です。AIは人に代わる存在ではなく、人の判断を支えるパートナーとして活用すべきだと考えています。
生成AIを活用した「One 人事[PublicAI]」も、そうした考え方のもとで実証を進めています。
導入のその先へ ─ 伴走と、いまいる職員を活かす選択
新しいシステムの習得や定着に、不安を持つ自治体もあります。
松井 公共分野ではシステムを長く使うため、異動による担当交代を見据え、毎年、初任者向け研修を実施しています。
坪本 最近は、「組織力を強化したい」というご相談から始まるケースも増えています。住民ニーズが多様化し、業務量が増えるなかで、このままでは運営が回らなくなる、という問題意識です。現状の課題を全体俯瞰で見えるようにし、研修を実施し、また現状を確認するーそのサイクルを自ら回せる組織にしていく。その土台として、人事評価のデジタル化から着手するという流れです。
私たちは、システムを納めて終わりではなく、そのサイクルが回るところまで一緒に支援していきたいと考えています。
最後に、これからの自治体の人材のあり方について。
松井 正直なところ、採用は怖い時代になったと感じています。生成AIを使えば、履歴書もエントリーシートも整った形で出てきてしまう。実態とかけ離れた「フェイクのスキルシート」が存在してもおかしくない時代です。
もともと、1~2回の面接で人を見極めるのは難しい。だとすれば、いまいる職員の良いところを見出して、最も力を発揮できる場所に配置し、長くキャリアを築いてもらう。人事課の本来の仕事は、育成であり、採用であり、その先にある住民サービスです。
適材適所の人事が実現すれば、その成果は住民に還元されていく。私たちは、その土台づくりを自治体の皆さんと一緒に進めていきたいと考えています。
(取材日:2026年7月13日)
1か月かかった評価集計を1、2日に短縮
Excel 運用を見直しクラウド型の導入を決断
埼玉県上尾市では、地方公務員法の改正を機に人事評価制度を刷新。
当初は正規職員約1,500人分のExcelファイルをメールで集める運用だったが、システム更改を機に「One人事[Publicタレントマネジメント]」の導入を決断。評価業務の負担軽減と、評価の “ 見える化 ” が進んでいる。
上尾市 総務部 職員課 下嵜 拓

人事給与を担当して現在7年目。地方公務員法の改正を機とした評価制度の刷新と、
「One人事[Publicタレントマネジメント]」の導入・運用を担う。
Excel集計1か月 ー評価業務と属人化の限界
システム導入前に、どのような課題を抱えていましたか?
人事評価は制度としてはあったものの、人材育成や処遇への反映に十分に結びつけられていませんでした。
運用は、職員が一人ひとつずつのExcelファイルに目標を打ち込み、メールで上司へ、上司が評価を打ち込んでさらに上位の評価者へーという流れで、正規職員約1,500人分のファイルが職員課に届きます。
マクロで集計していたのですが、ファイル名の変更やシートの改変があると弾かれてしまい、未提出に気づくまで1週間、督促して出てくるまでまた1週間。集計だけで1か月以上かかっていました。
マクロに長けた職員がいたから良かったものの、「あの人がいなくなったら…」という属人化の不安もありました。
既定路線の見直しと、庁内の合意形成
導入に至るまでの経緯と、決め手を教えてください。
システム更改の年、既存システムを改修する方向が既定路線でしたが、運用上の課題を課内で共有し、制度の円滑な実施を図るため方針転換を提案しました。当時は自治体でクラウド型システムの導入例が少なく、セキュリティやランニングコストへの不安から、庁内でずいぶん議論になりました。
各社の提案を受けて都度説明して回り、令和5年の秋から導入に向けた打ち合わせを進め、令和6年から運用を開始しています。
One人事さんは、データの保存場所などセキュリティ面を丁寧に説明してくださり、各種認証や公共機関での導入実績もありました。中でも響いたのは「フレキシブルさ」です。
Excelマスターではない私でも比較的簡単に操作でき、クラウド型なので設定を変えるだけで制度変更にも柔軟に対応できます。
評価の “見える化” から、人材育成への活用へ
導入後、どのような変化がありましたか?
場所や端末を問わず入力できるようになり、評価の時期に管理職が被評価者の目や時間を気にしてExcelを打つ光景を見かけることは少なくなりました。
評価者からは一人ずつファイルを開いて確認する手間が減ったという声を聞きますし、評価が確定すれば、本人も内容や根拠資料をシステムで見られます。評価する側はしっかりと見て公平・公正な判断ができ、される側は「きちんと見てくれている」と感じ取れる。
何より1か月以上かかっていた集計が、今は1、2日で終わります。もう、戻れないですね。
評価データを、今後どう活かしていきますか?
千数百人の評価を横並びで見られるようになったので、適材適所の配置や研修受講の提案に活かしていきたいですね。評価シートには「こんな仕事が向いている、やりたい」を書く欄がありますが、書きっぱなしにせず、人材配置につなげることもできるはずです。
働きやすい、働きたい、働き続けたいと思える組織であるために、キャリアの展望を示していく。そのためのシステムだと思っています。
(取材日:2026年7月22日)





