一般社団法人 自治体DX推進協議会

災害対応の効率化・迅速な情報発信を実現
港区が推進する防災DXの全貌

25万人を超える区民、複数のターミナル駅にあふれる大勢の帰宅困難者─。災害発生時に大規模な混乱が想定される東京都港区では、限られた人員で災害対応にあたるため、果敢に防災DXの取組を進めている。想定されるリスクに備えて導入・整備してきた各システムが、2024年度より本格始動。その背景と新しい体制の詳細、行政職員と被災者双方の目線から見た防災DXの利点について、港区 防災危機管理室 防災課の鳥居氏に話を伺った。

 

写真右:係長(課長補佐)辻村 亮佑

 

東京都港区 防災危機管理室 防災課
課長 鳥居 誠之様

東京都港区 防災危機管理室 防災課
課長 鳥居 誠之 プロフィール
  • 1989年4月、港区役所入庁。
  • 教育委員会事務局配属。
  • 区政情報課、会計室、保健所などへの配属を経て、2018年4月、保健福祉支援部国保年金課長。
  • 2020年4月、高輪地区総合支所協働推進課長、防災住民組織の支援、防災知識の普及啓発、地域防災訓練の実施などに携わる。
  • 2022年4月より現職。


 


 

 

―港区では防災DXが非常に進んでいると伺いました

有事に災害対策本部となる防災課の執務室に、電子黒板やマイク、V-CUBE Board(※1)を設置しているほか、SNS上の情報をAIが精査するシステムの導入、地域災害情報システムの抜本的なリニューアルも行いました。あわせて防災専用のホームぺージ「港区防災ポータルサイト」の構築や、VRやARを用いた防災訓練等も実施しているところです。

 


※1 地図情報や画像等の情報を一元管理できるテーブル状の大画面。タッチパネル操作が可能。

 

―積極的な取組の背景や、災害発生時の課題は

港区には2千数百人の職員がおりますが、区内在住者は約300名に限られます。夜間や休日に災害が起きた場合、発災直後から現地で動ける人数が少ないため、効率的かつ的確に災害対応を進める必要があります。また港区は、品川や新橋など大きな駅や繁華街を抱えており、災害時には大勢の帰宅困難者が出ることが想定されますので、区民や帰宅困難者に対する避難誘導にもテクノロジーを活用する方向で進めています。

 

 

最新の技術を活用して災害対策本部や現場の職員を多角的かつ強力にサポート

 

―新しい地域災害情報システムの詳細をお聞かせください

各地の被害状況や備蓄の管理状況の確認、区民に対する避難情報発令および各種情報発信まで、一体的に扱えるシステムです。気象情報や河川の水位情報などを集約し、要避難の判断に必要な情報をAIで抽出する仕組みを搭載しています。システムに入った情報は全て災害対策本部に設置した大型モニター(V-CUBE Board)で確認が可能。河川などの危険箇所を確認するほか、今後は、駅の状況を見るための専用カメラも設置する予定です。

SNS上の情報をAIが精査してフェイクを掃討する「FAST ALERT」も、災害対応には大変有効ですね。精度の高い情報だけを抽出してくれるので、SNSならではの抜群のスピード感で正確な情報を取ることができ、初動対応が早くなります。災害時の限られた人員では現地確認も困難になりますから、デジタルから情報を得て迅速に動けるのは、非常にありがたいことです。

区民への情報発信についても、港区防災ラジオ(※2)や防災無線、メール、アプリなど、複数のツールに一括送信が可能です。以前は一つひとつ手入力していたので、手間と発信までの時間が大幅に削減されます。「即座に判断して速やかに発信する」という点は、同システムの開発段階でもっとも重視したポイントでした。港区は外国人が多いため、新たに開設する防災専用のホームページ「港区防災ポータルサイト」では、Googleの自動翻訳で100程度の言語にも対応しています。


※2 1世帯(1団体又は1施設)につき1台まで1,000円で配付。住民税非課税世帯と生活保護世帯は無償。

 

(右)大型モニター(V-CUBE Board)や電子黒板を活用している様子

 

 

―帰宅困難者対策はどのように行いますか

港区では「駅周辺滞留者対策推進協議会」を発足するとともに、民間事業者とも協定を結んで帰宅困難者の滞在施設を確保しています。災害時には、協議会のメンバーと連携し、滞在施設への誘導案内をすることになります。そのための本部を駅周辺に設置をすることになりますが、地震などの大災害は突然発生するので、本部開設マニュアルが手元にあるとも限りません。そこで、本部設置の手順を立体VR画像で可視化し、スマホアプリで閲覧できるようにしました。鍵を借りて倉庫から備品を持ち出して案内図を指定の場所に設置するところまで、動画・音声・テキストでガイドしてもらえます。このアプリはID・パスワードを振り分けたうえで、港区職員と協議会、滞在施設の提供事業者が、手元のスマホで閲覧が可能。担当者が変わったばかりのタイミングで災害が発生しても、このVR画像があれば各自が的確に動けるでしょう。

協議会とは区内各地の状況確認の部分でも連携しており、火災や事故、液状化等が発生したら、参画する事業者様がリアルタイムでスマホアプリに入力していただく体制ができています。駅などの混雑状況確認においても同様ですね。入力された情報は、災害対策本部のV-CUBE Boardに映し出しながら対応を検討することが可能です。画像送信やチャット機能もあるので、誰が見ても正確に状況把握ができる仕組みになっていると思います。

 

V-CUBE Boardに表示される情報。気象情報や被害状況を一元的に確認可能

 

 

住民、帰宅困難者、災害弱者
─すべての人々に対し速やかな情報発信と必要な支援を

 

―防災アプリや防災専用HPも充実させているそうですね

東日本大震災を踏まえて「港区防災アプリ」を開発することになり、平成25年に運用を開始してから現在までの合計ダウンロード数は3万5千弱です。Google PlayとApple Storeからダウンロードできます。ハザードマップ、河川の水位や雨量などの情報を閲覧できるほか、あらかじめ住所を登録しておくと最寄りの避難所が地図付きで表示される機能もあります。令和6年3月に開設する防災専用ホームページ「港区防災ポータルサイト」は、住民への情報発信を目的としたものです。普段は青い画面ですが災害発生時は赤に変わり、避難情報や交通の遮断状況等、地域災害情報システムに集約した情報を住民が見られるように地域災害情報システムからアウトプットしていきます。
アプリやHPの閲覧に慣れていないけれど情報が欲しい方には、防災情報メールを配信していますし、防災無線のほか、無線の放送内容を聞くことができる港区防災ラジオを低価格で配付することも行っています。港区はビルが多く、遮音性の高いビルでは防災無線の音が届きにくいこともあるのですが、港区防災ラジオを置いておけば、ご自宅で放送内容を聞くことが可能です。区民が情報を得るためのツールは複数ご用意していますので、属性ごとに使い分けていただけたらと思っています。

 

港区防災アプリのトップ画面(左:区民向け/右:区民以外のユーザー向け)

 

 

―帰宅困難者への情報発信について

前述のアプリやHPは区外の方にもご利用いただけますし、一時滞在施設の情報については、Yahooやスマートニュースにバナー広告を出す仕組みを入れました。出先で被災して帰れなくなった方は、おそらく真っ先にスマートフォンを見るはずですから。「地震が発生して帰れなくなった、あなたの行動は?」というバナーをクリックすると、最寄りの一時滞在施設の開設状況が表示されます。

 

―対住民の施策として他に注力していることは

総合防災訓練にVRやARを積極的に取り入れていますね。火災や浸水、地震などの現場が、ゴーグル越しに映し出されます。地震の揺れを再現する起震車や防災座布団とAR・VRを併用すれば、よりリアルな体験が可能です。港区は5地区に分かれており、既にほとんどの地区でARやVRを使った訓練を実施しました。あまりリアルだとお子さんなどにトラウマを与えてしまうので加減が難しいのですが、体感型のものには人が集まりますし、何よりも身をもって地震がどのようなものかを知っていただけるので、区民の防災意識向上に役立っていると思います。
新たに導入する予定なのは、東日本大震災で被災した陸前高田市が取り入れている安否確認のソリューションですね。事前に登録いただいた方に自動で電話をかけるシステムで、2024年度の予算に盛り込んでいます。イエスorノー方式で状況を尋ねながら、相手の話した内容を自動でテキスト化。危険を知らせるキーワードが出たら赤字で強調され、より速やかな救助・支援が実現できます。能登半島地震で高齢者の安否確認に難航したという直近の事例を受けて、災害弱者を取り残さないための施策として取り入れました。いわゆる黒電話への発信も可能なので、パソコンやスマホをあまり使われていない高齢者の方などへは、アプリ等よりも有効なのではないでしょうか。

 

能登半島地震後には、区民から防災ラジオへの問い合わせも増えたと語る鳥居氏

 

 

定期訓練と平時の利用で習熟度を上げ災害に備える

 

―運用面の留意点や定着に向けた取組について

協議会や一時滞在施設の提供事業者との情報連携訓練や、区内在住の職員約300名のみで災害対策本部を立ち上げる訓練を実施しました。この取組を真に意義あるものにするためには、災害時に最大限の効果を発揮できるよう、皆が新しいシステムに習熟しておく必要があるからです。訓練以外にも、台風や降雪で公共交通機関の混乱が予測されるときには、システム内のチャット等で連絡を取り合って情報共有をしています。また、災害発生時にはアプリの通信が途絶または制限される事態も起こり得るでしょう。そのため、避難所や一時滞在施設と連絡を取るためのシステムや、公園等への公衆無線LANの整備、情報発信用のデジタルサイネージやスピーカーの導入・拡充も、今後、調査研究を進めていく予定です。

 

AR火災煙体感を利用した避難訓練(左)と熊本地震を再現したVR地震体験(右)の様子


 

AR浸水体験では、見慣れた場所が浸水したときの様子を体験できる

 

 

―防災DXに対する港区の思いをお願いします

災害時は住民の方はもちろん行政も被災するため、マンパワーが相当限られてくるでしょう。使えるものは使ったほうが良いですし、日常的にも効果的に使えるなら平時から慣れておくに越したことはありません。港区には帰宅困難者や災害弱者、高層マンション対策等の課題があります。デジタルが有効なところには存分に活用しながら、あまねくフォローしていきたいと思います。

(取材日:2024年2月6日)

 

東京都港区 防災危機管理室防災課

〒105-8511 東京都港区芝公園1丁目5番25号

TEL:03-3578-2111(代表)

https://www.city.minato.tokyo.jp/soshiki/kikikanri-index.html

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